【完】優しい彼の温もりに包まれて

「熱は?計ったんだろ?」


「なかったよ…」


「そうか。片付けてくるな?大人しく寝とけ」


「早く戻って来てね」


瑠夏は未だに1人にすると不安になるらしく必ず“早く戻って来てね”と言う


俺は急いで片付けて瑠夏のところへ戻る


瑠夏は椅子に座っていた


寝とけって言ったのに…


「丈瑠が居ないと眠れない」


可愛いこと言いやがって。


そんなこと言われたら嬉しくなるじゃねぇか…


「ほら、おいで」


俺はベッドに寝転がり瑠夏を呼ぶ


ニコッと笑って嬉しそうに近寄って来るのは高校時代から変わってないな


それも瑠夏の可愛いところだけど…


「久しぶりにこうやって抱きしめてもらった気がする。やっぱり丈瑠は温かいから落ち着く」


俺の胸に顔を埋めて呟く
「無理しすぎなんだよ…お前」


「だって、愛花と健斗はちゃんと育てたい。キツいけどあたしがやらなきゃ…あたしみたいな思いはして欲しくない」


「頑張りすぎだから体調崩すんだよ。勉強もバイトも子育てもあるんだから無理するな」


俺は瑠夏の頭を撫でた


「丈瑠、ごめんね…」


「謝るな。次、謝ったらキスするぞ?」


ちょっとイジめてみる


「良いよ…?丈瑠とならキスしたって構わない」


……ヤバッ


純粋に可愛いと思った


コイツは俺を狂わせる天才だ


「お前、可愛すぎ」


「丈瑠だから…んっ///」


瑠夏の言葉を遮ってキスを繰り返す


久しぶりに過ごす2人きりの時間


それが嬉しくて仕方ない


「はな…して…んっ、あっ」


瑠夏の甘く可愛い声が更に俺を狂わせる
「お前…普段、どれだけ俺が我慢してると思う?」


「分かんない」


「2人の相手も良いけどたまにはこうやって俺の相手もしろよな」


そして、軽くキスをする


「どうせ、キスするんでしょ?」


「瑠夏とのキスって安心するの。それ以外に理由はない」


真っ赤な顔になった瑠夏の頭を撫でる


「なぁ、瑠夏?」


きちんと座り直し後ろから瑠夏を抱きしめる


「…ん?なに…?」


自然と上目遣いになる瑠夏


「高校の入学式覚えてる?」


「入学式?覚えてるような覚えてないような…」


健斗達居なくて時間はあるし話しても良いよな


「俺が瑠夏を好きになった理由。」


「屋上で泣いてるあたしを見て好きになったとは聞いたことあるよ」


実はそれ以外にも理由がある
「高校の入学式の日、いつものように圭輔と学校に行った」


懐かしい記憶を思い出しながらゆっくり話す


「でも、圭輔が居なくなって探してたらバス停の近くにある桜の木を寂しそうに眺めてた子が居た」


「それって…もしかして」


「思い出した?それが瑠夏だったんだよ」


葉月高校の校門の近くに大きな桜の木が何本もある


「あたし、人混みが嫌いでクラス替えの名簿を見に行ってくれてた美春をあの桜の木の下で待ってたの」


「あの女の子って萩原だったんだな。それで瑠夏は名前を呼ばれて満面の笑みで近寄って行った。その時の笑顔が忘れられない」


凄く安心したような可愛らしい笑顔だったから


探したんだけど人数が多くて見付けられなくていろんな所から情報を仕入れて来る圭輔に聞いたんだ
「まぁ、簡単に言えば俺の一目惚れだった」


そして、またキスをする


「丈瑠?あたしを選んでくれてありがと。じゃあ、寝るね」


そういった瑠夏はあの時と同じような満面の笑みだった


スヤスヤと寝息を立てる瑠夏の頭を撫でる


俺にくっついて眠る姿も変わってない


健斗達が産まれてからはほとんど休めてないはず…


だから、体調を崩すんだ


瑠夏自身は“大丈夫”とか言ってるけど実際は大丈夫じゃない


健斗達が居るから甘えるのだって我慢してるのが分かる


甘えてる部分を見せたくないんだろう


だから、こういう時くらい思いっきり好きなようにさせたい


俺が初めて一目惚れして一緒に過ごしていくうちに凄く楽しくて離したくないと思った


“この子となら未来を約束しても大丈夫“って思ったのが瑠夏だったんだ
毎日感じる君の温かさ


それが凄く安心出来た


子育てしながらいろんなことをするのは大変だけど…


君が居るから大丈夫


今日も子供達と君の温もりを感じながら過ごすのです
瑠夏Side


あれから3年の月日が経ち高校を卒業してからあたしは“山岸瑠夏”から“小野寺瑠夏”となった


だけど、大学に通う間は理由を話して“山岸瑠夏”として通わせて貰っている


お母さんは大学進学を反対したけどお父さんは賛成で…


“4年間の間にたくさんの資格を取りなさい”だそうだ


子供も居るしお金の心配もしたんだけど“心配するな”って言われた


健斗が産まれてから大学に行くなら通信制の大学に通うことを決めていた


大学生になってから愛花も産まれたから大変…


子育てやバイトや学業は大変だけどそれなりに充実してる


丈瑠も手伝ってくれるしね


子供が産まれてからは喧嘩もしてない


苛々する時もあるけど丈瑠が抱きしめてくれる


21歳になった今、このあたしが2人の子供の母親なのです
そして今は、久しぶりに体調崩してしまって愛花達は光莉さんに預けて休養中


ここ数日、頭が痛くて市販の薬を飲んだけど効かなくて丈瑠に病院に連れて行かれた


病院嫌いなんだけどな…


でも、健斗達が居なくて静かだからゆっくり休養出来て回復してきている


「瑠夏?薬飲めよ」


丈瑠は薬と水を持ってきてくれた


「ありがとう」


病院に連れて行ってくれた日、丈瑠に“一目惚れだった”って言われて恥ずかしくなった


「瑠夏?」


顔を上げるとキスをする丈瑠


愛花達が居ないからかキスをすることが多いんだ


すんなりと受け入れてしまうあたしも単純なんだけど…


別に嫌じゃないし逆に嬉しい


愛されてるって実感出来る


あたしは思いきり抱き着いた
「愛花達が居ないから甘えモード全開だな」


「だって、不安なんだもん」


丈瑠が離れていきそうで…


そんなあたしのことを見透かしたのか…


「健斗や愛花が居るし俺は瑠夏から離れない」


あたしの頭を撫でてくれるスピードも昔から変わっていない


「それに…独占欲強いから瑠夏以外考えてねぇよ」


「恥ずかしいからそれ以上言わないで」


「だって、瑠夏は未だに告白されてるんだろ?最近、また可愛くなったし綺麗さも増してるし」


……えっ?


「何で知ってるの?」


「捺稀から聞いた」


「全部断ったよ?丈瑠しか見てないし。カッコイイって思うのも丈瑠だけだよ」


「俺だって妬くんだよ。瑠夏と離れたくねぇ」


あたしが不安になるように丈瑠も不安になるんだね