【完】優しい彼の温もりに包まれて

「山岸瑠夏。よろしくね?」


「瑠夏っていうんだ。可愛いね。俺、咲田響。よろしくな」


...咲田響(サキタヒビキ)君


本当に同級生なんて思えないほどしっかりしてる


「響君かぁ...」


「響で良いよ。瑠夏って呼んで良い?」


「良いよ。よろしくね」


あたし達は他愛のない話をして楽しんだ


初めてだったから自己紹介みたいな感じだった


「なぁ、瑠夏。また此処で会える?」


あたしは小さく頷いた


「じゃあ、また此処で話そうな」


響はニコッと笑って去って行った


それから、あたし達は会う度に仲を深めていった
学校が終わり早々と帰ってたから咲那から”付き合い悪いよ”なんて言われたりもした


だけど、それだけ響と一緒に居る時間が楽しかったんだ


そんなある日...


「俺、瑠夏が好きだよ」


帰り際に響に告白された


真剣な瞳にあたしは俯くしか出来なかったんだ


「あたしも響が好き」


その時のあたしの正直な気持ちを伝えた


初めての告白に戸惑ったけど”好き”って言ってくれたのが素直に嬉しかった


その日を境にあたし達は付き合い始めた


公園でお喋りしたりお互いの部屋を行き来して勉強したり...


それなりに充実した楽しい時間を過ごした


お母さんも響のことを気に入っていた


相性が良かったのか良く話してたし


その光景を見てあたしも微笑ましくなった
「瑠夏、キスして良い?」


帰り際、抑え切れなかったのか響はあたしの返事を聞かずにキスを続けた


それをきっかけに帰り際にキスをして別れるのが当たり前となった


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世間は受験シーズン到来


「響ってどこの高校に行くの?」


あたしは気になってたことを聞く


「俺?冬栄高かな?瑠夏は?」


冬栄(トウエイコウコウ)といえばレベルが高くて部活動も盛んという事で有名


「あたしは葉月高校。家から近いしね。多分、私立には通わせてくれないと思う」


いつも”お金がない”って言ってこの話を打ち切る


さすがにあたしの頭のレベルだと冬栄高校は無理だ


「お互い忙しくても時間作って会おうな?」


響はニコッと笑って軽くキスをする
”会おうな”って言われた時、本当に嬉しかった


だけど、それはあたしの思い過ごしなだけで...


受験勉強中、息抜きの為に響に”会いたい”とメールした


だけど、返事は”ゴメン。今は忙しくて会えそうにない。また今度な”という内容のメールがいつも送られてきた


それで、あたしは不安になった。


響とも会えないし気分転換に1人で買い物に来た


いろんな雑貨を見て回り喉が渇いたから椅子に座ってコーヒーを飲んでいたその時...


「響、待ってよ~!!」


何処かで聞いたことのある名前


それは響と知らない女の子が仲良く手を繋いで歩いている姿だった


あたしはその場に固まった


響のこと信頼してたのに...


響からの連絡まってたのに


あたしのことは遊びだったの?
「瑠夏...?」


あたしの存在に気付いた響は”ヤバいっ”という顔をした


「どういうこと...?」


「響、この人だぁれ?」


響に媚びるようにして聞く女の子


「ただの友達だよ」


”ただの友達”と言われショックを受けた


「彼女じゃなかったの?”好き”って言ってくれたよね?」


会えないって言ってたのもこのせいなの?


「今は好きじゃない。じゃあな。」


響は素っ気無く言葉を返し去って行った


響と女の子はとても楽しそうだった


あたしが好きになった人は皆、あたしから離れて行くんだ


初めて好きになった人なのにな


ショックを隠しきれなかった
あたしは力が抜けてその場にしゃがみ込んだ


いきなりのことで泣くことも出来ない


今まで言ってくれたこと全部ウソだったんだ...


あたし嬉しかったのに...


”好き”って言われたのなんて初めてだったから


信頼してたのに。


大好きだったのに


家にかえってもやる気にならずひたすら泣き続けた


「瑠夏ー?ちゃんと勉強しなさいよ!!」


響が来なくなってからお母さんのあたしに対する態度が冷たくなった


その日を境にあたしは人を信頼しなくなった


信頼しても裏切られるだけ...


恋をするのも怖い


もう恋なんてしない


”好き”という感情を封じ込めた瞬間だった
君の過去の出来事を聞いてどう接して良いか分からなかった


だけど、君なりに一生懸命話してくれた


それがまた嬉しくなった


君のことを知れた気がして…


だから尚更、君から離れたくなくなったんだ
丈瑠Side


話し終えた瑠夏は涙でぐちゃぐちゃになっていた


泣きすぎて声も出ないほど…


瑠夏なりに一生懸命言葉を繋げて俺に説明してくれた


本当は辛いはずなのに…


俺は頷くか頭を撫でるしか出来ずどうして良いかも分からなかった


「落ち着いたか?」


声が出ないからなのか小さく頷いた


俺は離れないように強く抱きしめた


「本気で好きになったのは丈瑠が初めてなの…。あたしらしく居られる人。だから…あたしの傍に居て下さい」


瑠夏からの告白…。


改めて言われると恥ずかしいけど嬉しかった


「俺で良ければ…。瑠夏が俺を選ぶなら一生離さないけど良いのか?」


「丈瑠じゃなきゃ嫌だっ。」


「これから大変だけど一緒に乗り越えような?俺は瑠夏の傍に居る。しっかり守るから」


瑠夏は顔を上げてとびっきりの笑顔で頷いてくれた


それが嬉しくて俺まで笑顔になる
「せっかく化粧してたのにぐちゃぐちゃだな」


瑠夏の顔を見て笑みがこぼれた


「言わないで…」


「さっ、寒いし帰ろう」


立ち上がりたいけど離れてくれない瑠夏


「まだ一緒に居たい。家にも帰りたいけど2人が良い」


家に帰ったら沙穂の面倒見なきゃいけない


沙穂は瑠夏のこと大好きだから一緒に居たいんだろう


こういう時しか甘えられないからな


「寒くないか?」


「丈瑠が抱きしめてくれてると温かいから大丈夫」


瑠夏は他に何か言いたそうだった


「あたしね、あれ以来カップル見るの怖くなったの。凄く幸せそうで一人だけ取り残されてるような気がした」


「今は幸せじゃないのか?」


“一緒に居るのが嫌だ”って言われたら完璧に凹むな…俺。