丈瑠Side
瑠夏の体調も良かったり悪かったり…
そんな中、今日は瑠夏のおばあさんの家に行く日
何気に緊張してるんだよな
初めてだから…
隣には楽しそうにお喋りをする瑠夏と沙穂
2人を見てると微笑ましくなる
「丈瑠、緊張してるのか?」
「えっ?」
「なんか表情が固いからな」
忠弘さんは俺を呼び捨てで呼ぶようになった
何気、嬉しかったり…
認められた証拠だと思う
「そりゃあ、緊張しますよ。初めてですもん」
「ハハッ。父さんも母さん丈瑠のこと気に入ると思うけどな」
「だと良いですけど。」
なんか不安になってきた
「お父さん、いつものとこ寄ってくれる?」
いつものとこ…?
話しの内容に付いていけない
「分かった。丈瑠、一緒に付いて行ってくれるか?沙穂は俺が見とくから」
「はい。良いですよ」
一体、何処に行くんだ?
車を止めた先にはホームセンター
沙穂と忠弘さんはお留守番
「何を買うんだ?」
「えっとね…。ティッシュと食器洗い洗剤を頼まれてたの。トイレットペーパーと洗濯洗剤はあたしがあげようと思って」
「なんで日用品なんだ?」
もっと他の物があるはずなのに…
「お菓子とかでも喜ぶんだけどそれは世蓮が買って行ってるはずだから。実際、おばあちゃんはこっちの方が喜ぶの。」
そういうことか…。
瑠夏は買うものを見つけ出しいつの間にか支払いを済ませていた
「荷物は持ってやるよ」
「ありがと」
俺は瑠夏から重たい荷物を預かる
いつもだったら“自分で持つから良い”とか言ってるんだけどな。
最近は少しずつ頼ってくれるようになった
身体の調子が優れてないというのもあるんだろうけど…
「はい。沙穂ちゃんにはこれね」
車に戻り瑠夏が沙穂に渡したのは林檎ジュース
「お姉ちゃん、ありがと」
「どういたしまして。お父さんと丈瑠はこれ」
俺達に渡したのは缶コーヒー
「おっ、言うの忘れてたから買って来ないかと思った」
「お父さんがいつも此処で缶コーヒー買ってるのを知ってるから忘れないよ~!!」
いつの間に買ってたんだろ?
「瑠夏、ありがとな。でも良く分かったな?」
「どういたしまして。だって丈瑠はそれしか飲まないでしょ?それにお父さんと同じだったから覚えてた」
良く見てるな…
「さっ、行くか。皆勢揃いのはずだから。」
忠弘さんは缶コーヒーを一口飲み運転を再開した
瑠夏はというと俺によっ掛かって来た
これは瑠夏の体調があまり良くない証拠
最近は更にどんなときに体調が良くないのか分かるようになってきた
沙穂は疲れたのか眠っている
そのうち瑠夏も眠っていた
結構、遠いんだな
「さっ、着いたぞ」
忠弘さんは運転して疲れているようだった
着いた先は山の中
そこに大きな家が3件ほど並んで建っている
「瑠夏、沙穂。起きろ」
起こすのは可哀相だけど起こさないとな。
「…ん?着いた?」
まだ眠たそうな2人
「沙穂、おいで」
忠弘さんは沙穂を背負ってくれた
人見知りの沙穂のことを考えてくれたのだろう
「おばあちゃーん!!」
瑠夏は畑仕事をしている女の人に声を掛ける
「あら、瑠夏。良く来たね」
「うん。皆、揃ってるの?」
「えぇ、公民館で準備してるよ」
話しを進めていく2人
「瑠夏、そちらの方は?」
俺に気付いたおばあさんは瑠夏に尋ねた
「あっ、この人あたしの彼氏なの。」
「小野寺丈瑠です。よろしくお願いします。」
「貴方が丈瑠君なのね。話しは聞いてるわ。私は山岸ツキ子。よろしくね」
山岸ツキ子さん
ニコッと笑ったその顔は瑠夏そっくり。
瑠夏の可愛らしい笑顔はこの人の遺伝なんだな
「瑠夏、荷物置いておいで。瑠夏専用の部屋、片付けておいたから」
「ありがとう」
瑠夏は荷物を持つと何処かに行ってしまった
「忠弘の後ろに隠れてる女の子は誰かな?」
「俺の妹なんです。すみません。急に押しかけてしまって…」
「良いんだよ。事情は忠弘から聞いてたからね。お名前教えてくれるかな?」
「沙穂…。」
「沙穂ちゃんね。忠弘、荷物置いて来たら?」
「分かった。沙穂、行くぞ」
沙穂は小さく頷いて忠弘さんに抱かれ何処かへ行ってしまった
取り残された俺…。
どうしたら良いんだ?
知らないところに一人って寂しい
「丈瑠君、夜、ゆっくりとお話出来るかい?」
「えぇ、良いですよ。俺で良ければ…。」
「ありがとう。騒がしいだろうけどゆっくりして行ってね。」
「はい。ありがとうございます」
瑠夏のおばあさん、優しそうな人で良かった
「丈瑠!!おばあちゃん!!」
荷物を置いた瑠夏が戻って来た
「瑠夏、丈瑠君を瑠夏の部屋に案内した後、ちょっと手伝ってくれる?」
「うん!!分かった」
「体調は大丈夫なのか?」
心配だから聞いてみる
「さっき少し寝たから大丈夫だよ」
「無理はするなよ」
ポンポンと瑠夏の頭を撫でる
「瑠夏が出来るだけで良いからね。裏庭に来てくれるかい?」
ツキ子さんはそれだけ告げると微笑んで行ってしまった
「少しは緊張解れた?」
「なんだ…。気付いてたんだな」
「当たり前じゃん。あたしだって少しは丈瑠のこと理解しようって必死なんだよ?」
瑠夏も母さんと一緒で観察力あるからな
たまに気を抜けない時があるんだ
「此処があたしが使ってる部屋なの。」
案内されたのは少し離れたところにある8畳ほどの畳の静かな部屋
そこには小さなテーブルと棚、ソファー、そして折り畳めるベッドが2つ置いてあった
「良く此処に来てたのか?」
「うん…。不登校の時、お母さんと喧嘩して途中までバスで来ておじいちゃんに迎えに来て貰って此処に篭ってたの。」
懐かしそうに話す瑠夏
「さっ、おばあさんのとこ行くか。待たせたら悪いだろ?」
「そうだね。夜、甘えさせて…?」
ギュッと俺に抱き着いてくる瑠夏
凄く可愛いんですけど…
キスしたくなるけど此処は我慢だな
「分かった。無理せず頑張ること。約束な?」
「うん。分かってるよ」
俺達はツキ子さんの居るところへ向かう
「2人ともこっちだよ~」
ツキ子さんは何かを洗っていた
「2人で濯いでくれるかな?」
目の前にあるのは大量の食器
「これ、何に使うんですか?」
「結構、大人数だから食器が足りなくてね。だから洗って持って行こうと思って…」
「分かりました。洗えば良いんですね」
「水が冷たいよろしくね。瑠夏はこれに座りな」
ツキ子さんが持ってきたのは小さな木の椅子
「ありがと」
瑠夏はお礼を言うとその椅子に座り込んだ
大量にある食器を瑠夏と2人で洗い終えた
「これって公民館に運べば良いんだよね?」
「よろしく頼むよ。ついでにこれもね。世蓮が準備で居るはずだから聞けば分かるから」
ツキ子さんは慌ただしく次の作業に取り掛かっていた