「おじちゃん、おはよ。」
お父さんに懐いている沙穂ちゃんは近寄って行った
「沙穂、おはよ」
お父さんはいつの間にか“沙穂”と呼ぶようになっていた
もちろん丈瑠のことも“丈瑠君”じゃなくて“丈瑠”と…
それだけお父さんが2人を気に入った証拠だよね
あたしとしては嬉しいな
「お母さんは?」
「実頼は先に連れてったよ。さっ、母さんも父さんも瑠夏に会うのを楽しみにしてるから行こうか」
「うん。世蓮達も来てるんだよね?」
「あぁ、世蓮も蓮歩も来てるよ」
2人に会うのは久しぶりだなぁ。
お盆以来だからなんか緊張する
ましてや丈瑠まで一緒なんだもん
「瑠夏、荷物はこれだけ?」
「うん。ありがと」
丈瑠は荷物を車へと運んでくれた
咲那とのことがあってあたしのことを更に気にかけてくれるようになった丈瑠
本当に優しすぎる
「沙穂と車に乗っておくからあとは戸締まりは頼んだよ」
お父さんは沙穂ちゃんを抱き車へと向かっていた
「丈瑠?本当に良かった?せっかくのお正月なのに…」
戻って来た丈瑠に謝る
「心配すんなって。俺が瑠夏と居たいだけだし。でも、俺こそごめんな。沙穂と押しかけることになって…」
その心配はない
おばあちゃんの家って広いから何人でも止まれるの。
「さっ、早く戸締まりして行こうな?」
「うん。その前にギュッて抱きしめて?」
「おいで?」
文句も言わずに抱きしめてくれる丈瑠にあたしは嬉しくなって思い切り抱き着いた
丈瑠って温かい
凄く安心出来るんだ
「沙穂達が車で待ってるし行くか。奥の部屋の戸締まりしてくる」
ポンポンとあたしの頭を撫でて戸締まりをしに行った
あたしも近くの戸締まりをする
最近、身体がダルいと思うこと多いけど丈瑠に抱きしめてもらうと少し楽になる
頼ってばっかりだな…。
でも、丈瑠はあたしの精神安定剤なの
「瑠夏、戸締まりとその他の確認終わったか?」
「うん。終わったよ。いつも頼ってしまってごめんね?行こうか」
「気にするな。俺がしたくてしてるの」
「でも…。あたし何も出来てないよね」
「瑠夏は俺の隣に居てくれるだけで充分」
丈瑠はあたしの頭を撫でながら微笑んでくれる
「さっ、行くぞ」
あたし達は最後に玄関の鍵を閉めお父さん達が居る車へと向かった
丈瑠Side
瑠夏の体調も良かったり悪かったり…
そんな中、今日は瑠夏のおばあさんの家に行く日
何気に緊張してるんだよな
初めてだから…
隣には楽しそうにお喋りをする瑠夏と沙穂
2人を見てると微笑ましくなる
「丈瑠、緊張してるのか?」
「えっ?」
「なんか表情が固いからな」
忠弘さんは俺を呼び捨てで呼ぶようになった
何気、嬉しかったり…
認められた証拠だと思う
「そりゃあ、緊張しますよ。初めてですもん」
「ハハッ。父さんも母さん丈瑠のこと気に入ると思うけどな」
「だと良いですけど。」
なんか不安になってきた
「お父さん、いつものとこ寄ってくれる?」
いつものとこ…?
話しの内容に付いていけない
「分かった。丈瑠、一緒に付いて行ってくれるか?沙穂は俺が見とくから」
「はい。良いですよ」
一体、何処に行くんだ?
車を止めた先にはホームセンター
沙穂と忠弘さんはお留守番
「何を買うんだ?」
「えっとね…。ティッシュと食器洗い洗剤を頼まれてたの。トイレットペーパーと洗濯洗剤はあたしがあげようと思って」
「なんで日用品なんだ?」
もっと他の物があるはずなのに…
「お菓子とかでも喜ぶんだけどそれは世蓮が買って行ってるはずだから。実際、おばあちゃんはこっちの方が喜ぶの。」
そういうことか…。
瑠夏は買うものを見つけ出しいつの間にか支払いを済ませていた
「荷物は持ってやるよ」
「ありがと」
俺は瑠夏から重たい荷物を預かる
いつもだったら“自分で持つから良い”とか言ってるんだけどな。
最近は少しずつ頼ってくれるようになった
身体の調子が優れてないというのもあるんだろうけど…
「はい。沙穂ちゃんにはこれね」
車に戻り瑠夏が沙穂に渡したのは林檎ジュース
「お姉ちゃん、ありがと」
「どういたしまして。お父さんと丈瑠はこれ」
俺達に渡したのは缶コーヒー
「おっ、言うの忘れてたから買って来ないかと思った」
「お父さんがいつも此処で缶コーヒー買ってるのを知ってるから忘れないよ~!!」
いつの間に買ってたんだろ?
「瑠夏、ありがとな。でも良く分かったな?」
「どういたしまして。だって丈瑠はそれしか飲まないでしょ?それにお父さんと同じだったから覚えてた」
良く見てるな…
「さっ、行くか。皆勢揃いのはずだから。」
忠弘さんは缶コーヒーを一口飲み運転を再開した
瑠夏はというと俺によっ掛かって来た
これは瑠夏の体調があまり良くない証拠
最近は更にどんなときに体調が良くないのか分かるようになってきた
沙穂は疲れたのか眠っている
そのうち瑠夏も眠っていた
結構、遠いんだな
「さっ、着いたぞ」
忠弘さんは運転して疲れているようだった
着いた先は山の中
そこに大きな家が3件ほど並んで建っている
「瑠夏、沙穂。起きろ」
起こすのは可哀相だけど起こさないとな。
「…ん?着いた?」
まだ眠たそうな2人
「沙穂、おいで」
忠弘さんは沙穂を背負ってくれた
人見知りの沙穂のことを考えてくれたのだろう
「おばあちゃーん!!」
瑠夏は畑仕事をしている女の人に声を掛ける
「あら、瑠夏。良く来たね」
「うん。皆、揃ってるの?」
「えぇ、公民館で準備してるよ」
話しを進めていく2人
「瑠夏、そちらの方は?」
俺に気付いたおばあさんは瑠夏に尋ねた
「あっ、この人あたしの彼氏なの。」
「小野寺丈瑠です。よろしくお願いします。」
「貴方が丈瑠君なのね。話しは聞いてるわ。私は山岸ツキ子。よろしくね」
山岸ツキ子さん
ニコッと笑ったその顔は瑠夏そっくり。
瑠夏の可愛らしい笑顔はこの人の遺伝なんだな
「瑠夏、荷物置いておいで。瑠夏専用の部屋、片付けておいたから」
「ありがとう」
瑠夏は荷物を持つと何処かに行ってしまった
「忠弘の後ろに隠れてる女の子は誰かな?」
「俺の妹なんです。すみません。急に押しかけてしまって…」
「良いんだよ。事情は忠弘から聞いてたからね。お名前教えてくれるかな?」
「沙穂…。」
「沙穂ちゃんね。忠弘、荷物置いて来たら?」
「分かった。沙穂、行くぞ」
沙穂は小さく頷いて忠弘さんに抱かれ何処かへ行ってしまった
取り残された俺…。
どうしたら良いんだ?
知らないところに一人って寂しい
「丈瑠君、夜、ゆっくりとお話出来るかい?」
「えぇ、良いですよ。俺で良ければ…。」
「ありがとう。騒がしいだろうけどゆっくりして行ってね。」
「はい。ありがとうございます」
瑠夏のおばあさん、優しそうな人で良かった