「うん、ありがと。ごめん」
コイツ、目が大きいんだな
可愛い顔してんじゃん
間近で見たのが初めてだったから…
泣き顔なんて勿体ない。
「じゃあ、俺、授業戻るな?」
そう言って立ち上がろうとした時…
「もう少しだけ傍にいて…」
制服の裾を握り小さく呟いた瑠夏
「名前も知らないのに我が儘言ってごめんなさい。でも今は誰か隣に居て欲しいの」
表情からして寂しそうだった
…これは何かあったな。
「分かった。来い」
俺が手を広げるとニコッと微笑んで飛び込んで来た
再び泣き続ける瑠夏の頭を撫でる
俺の名前はいつ知ってくれても良い
1年の時に助けたくても出来なかったから今、出来ることはしてあげよう
…俺が片想いしてる女だから。
知られたくなくて隠してるんだけどな
とは言っても圭輔と捺稀は気付いてるだろう
瑠夏は泣き疲れたのかいつの間にか眠っていた
きっと誰かに甘えたかったんだな
表情が落ち着いてるから…
風邪を引かないように俺のブレザーを掛けてあげた
今は春でも肌寒かったりする
俺まで眠くなって来たけど今日は寝ない
瑠夏が心配だから。
良く見てみると涙を流していた
変な夢でもみてるのか?
俺はその涙を拭ってやった
「…ん?」
ゆっくりと目を開いた瑠夏。
「起きたか?」
俺の声に気付き目を見開いた
「あたし、寝てた?」
「あぁ、気持ち良さそうに寝てたからそのまま寝かせといた」
「そうなんだ…ありがと」
ちゃんとお礼を言ってくれて嬉しくなった
「授業受けなくて良いのか?」
「そろそろ戻らなきゃいけないかな…行きたくないけど捺稀に心配かけちゃう」
そういうとゆっくり起き上がる
「顔色悪いのに授業受けて大丈夫なのかよ?」
「うん。さっきより楽になったし大丈夫。ありがとう」
「そっか。良かった」
俺は瑠花の頭を撫でる
「ねぇ、名前聞いて良い?」
「今度会った時な?」
ちょっと意地悪してみる
「えぇ~教えてくれたって良いのに」
瑠夏は名前を聞けなくて悔しそう
「またいつか会えるって。じゃあな」
俺は教室へ戻った
「丈瑠ー遅かったじゃん」
「ごめん、寝てたんだ」
寝てたのは俺じゃないけど…
「俺も寝たかった。はい、これ」
圭輔はある物を差し出した
圭輔が差し出したのはノートだった
コイツ、勉強が出来ないわりにノートを纏めるのは上手いんだよな…
「あぁ、サンキュ。」
それから普通に授業を受けて沙穂を迎えに行く
「お兄ちゃん!!」
俺に気付きトコトコと走ってくる
「丈瑠君、お疲れ様。」
愛美さんから渡されたのは沙穂の荷物
「ありがとうございます」
「今日もお利口にしてたわよ」
愛美さんは毎日のように沙穂の様子を教えてくれる
「さっ、帰るか」
俺は沙穂を抱き上げた
「気をつけて帰ってね」
「先生、バイバイ」
沙穂は小さな手を一生懸命振る
その姿が可愛らしい
それからは自分の部屋でゆっくり過ごした
ベッドに寝転がっていたらそのうち眠りについた
…瑠夏のことを考えながら。
夜の公園で見かけた女の子
その女の子を見た時、何処かあたしに似ていた
だから、傍に居たの…
可哀相だったから。
小さすぎて放っておけなかった
そんな時に遭遇した人…
それは、屋上で出会った君だったの
瑠夏Side
あの男の子は誰だったんだろう
名前を知りたかったのに教えてくれなかった
何故、あたしに優しくしてくれたの?
あたし男の子嫌いなのにあの人だけは違った
なんて考えながら教室へ行く
「瑠夏ぁ…大丈夫?」
教室に入ると心配してくれる捺稀の姿が目に入った
「大丈夫。寝たら少しは落ち着いた」
「そっかぁ。良かった」
周りは賑やかすぎて正直、また具合悪くなりそうだけどね…
あたし賑やかすぎるのは嫌い
具合悪くなるから…
捺稀はあたしが居ない間にあった授業のノートを貸してくれた
1年の時は仲良い人がクラスにいなくて美春にコピーしたヤツを貰ってたっけ?
捺稀が居ることで少しは友達に頼んでも良いのかな?
イジメにあって不登校になっていたあたし
だからクラスでも友達って呼べる人がいなかった
でも、美春だけは違ったんだ
クラスは違うのに部活がない日は顔出しに来てくれて愚痴を聞いてくれた
唯一、あたしを見捨てないでくれた人
だから、美春は信頼出来る数少ない友達。
でも、捺稀も美春と同じようにあたしのことを心配してくれた
受け入れてくれたからあたしも捺稀を受け入れようと思ったの。
2人の隣に居たら落ち着くから
「…夏。瑠夏!!」
「えっ?」
捺稀に呼ばれ我に返る
「授業終わったよ?」
「あれ、いつの間に?」
「何か考え込んでたみたいだね。大丈夫?」
あたし、こんなに心配してくれる友達持ったのは美春以外だと初めてだ。
「大丈夫。ごめんね」
今日は職員会議らしく授業も午前中で終わり。
今からバイトだ
「瑠夏、今日はバイト?」
捺稀が片付けながら聞いてくる
「うん。今から行かなきゃ…」
「そっか…頑張ってね」
「捺稀ー?」
教室の外から聞こえる圭輔君の声
「今行くから待ってて」
チラッと見てみると圭輔君の後ろに屋上であったあの人がいた
でも、怖くなって視線を反らした
「瑠夏、行くよ?」
捺稀の声でやっと顔を上げた
「あたし急ぐね。また明日」
捺稀は心配そうな顔をしたけどあたしは笑顔で挨拶をして教室を出た
あの人と視線を合わせないように…
あたしは学校を出て急いでバイトへ行く
「瑠夏ちゃん、今日もよろしくね」
出迎えてくれた橋村さん
「あれ、仁菜さん来てないんですか?」
いつもなら居るはずの仁菜さんが居ない
「仁菜ちゃんなら今さっき出て行ったよ。1限だけ受けて戻ってくるらしいから大丈夫」
…そっか。良かった
橋村さんはあたしが不登校になってるのを知ってる
だから優しくしてくれるんだ
「瑠夏ちゃん、今日さ、いつもより1時間延長で良い?」
「はい、大丈夫です」
「良かったぁ…今日は人数足りなくてさ」
忙しいんだね。
お父さんに連絡しておかなきゃ…
お母さんはバイトしてること知らないから言えな
い
今のバイト先はお父さんの紹介だから…
どうせ、お母さんには怒られるんだろうな。
お父さんは心配性だから電話くらい入れておかないと…