「丈瑠、酷い」
ボソボソと呟いている圭輔君をよそに荷物を持ちあたしの手を引く丈瑠
何で隣の教室なんかに…
「俺らが居たら圭輔が勉強しないから」
…そういうことね
「ねぇ、丈瑠…」
「ん?」
「あたし1回家に帰るね?」
「大丈夫か?まだそんなに時間経ってないのに」
「大丈夫じゃないけど帰らなきゃ」
「もっと居て良いんだぞ?」
「うん。ありがと。」
丈瑠が心配してくれてるのが分かる
あたしは思いっきり抱き着いた
「なんかあったらまたこうやって抱きしめてね?」
恥ずかしくなって丈瑠の胸に顔を埋めた
「可愛いこと言いやがって…」
「あたし可愛くないもん」
素直じゃないし強がっちゃうし…
「いや、お前は可愛い。髪型変えて他のクラスの奴らも狙ってるんだぞ」
……そうなんだ。
丈瑠に“可愛い”って言われただけで十分
「でも、あたしは丈瑠だけ。丈瑠が居れば良い」
「やっぱ反則だ…」
「こうやって甘えるのも抱きしめられるのもキスするのも全部丈瑠だけなの」
言った自分が恥ずかしい
「瑠夏、顔上げて?」
そんな優しい声で囁かないで…
「…ん///」
ほらね、キスすると思った
でも、丈瑠がしてくれるキスは嫌いではない
むしろ落ち着くし安心する
「俺だって瑠夏だけだから…」
そう言ってくれると嬉しい
「瑠夏ぁ…」
隣の教室から涙目の捺稀がやって来た
「どうしたの?」
「圭輔がぁ…」
圭輔君が…?
何かしたのかな?
「圭輔がいくら教えても内容を理解してくれないってか?」
「さすが丈瑠君。まさにその通り!!」
「丈瑠、良く分かったね?」
「一応、一緒に居る時間が長いから分かるさ」
……にしても凄い
とりあえず3人で隣の教室へと向かう
「圭輔、お前理解する気あるのか?」
丈瑠の声が一段と低いような気がする
「あるよ~。だけど…」
「じゃあ文句言わずにやれ。言い訳はなしな?頑張って教えてる捺稀の身にもなれ」
「はい。ごめんなさい」
凄い。圭輔君が黙った
「捺稀、これで大丈夫だと思うぞ?」
「ありがとー。こういう時は丈瑠君に頼まなきゃね」
“酷すぎる”なんて呟きながら勉強をする圭輔君
「じゃあ、俺らはこれで」
丈瑠はあたしの手を引き隣の教室へ戻る
「あんなに言っちゃって良かったの?」
「アイツはあのくらい言わなきゃ分かんねぇよ」
丈瑠の迫力には負けた
「その前に瑠夏は自分の心配しろ。なっ?」
急に口調が優しくなりあたしの頭を撫でる
「うん…やっぱり丈瑠は優しいよ」
「そうか?俺が優しいのは瑠夏だけだぞ?」
「そんなこと言わないでよ。嬉しくて泣きそ」
最近、涙腺緩いのに…
「泣け。勉強は落ち着いてからで良い」
あたしは思いっきり丈瑠に抱き着いた
「今日は甘えん坊だな?そんな瑠夏も可愛いけどね」
「だってぇ…」
丈瑠にしか甘えられないんだもん
「瑠夏の言いたいことは分かってるから」
優しく微笑みながらあたしの頭を撫でた
それが嬉しくて泣き出してしまった
丈瑠はそんなあたしを放らずに抱きしめていてくれた
「落ち着いたか?」
「うん。ありがと」
あたしは丈瑠から離れようとしたが…
態勢を変え後ろから抱きしめられたままだ
「瑠夏、好きだ」
あたしの肩に顔を乗せて囁いた
「どうしたの?」
「ただ言いたくなっただけさ」
びっくりした…
でも、恥ずかしい
「あたしも好き…だよ?丈瑠だけだからね」
なんて言ったらまた唇を塞がれていた
「お前、本当に反則。可愛すぎ」
「恥ずかしいから言わないで」
恥ずかしくなって顔を伏せた
「可愛いんだから仕方ないじゃん?」
「だけど……」
「瑠夏は可愛いよ。俺が初めて本気で好きになったんだからな?」
今日の丈瑠は一段と優しい
いつも優しいけどね?
「さっ、少しは勉強しような?」
あたし達は勉強に取り掛かった
「丈瑠、此処は?」
「ここはな、この公式使うと分かりやすいぞ?」
なんて言いながら丁寧に分かりやすく余白に公式を書いてくれた
それから1時間くらいしてある程度メドがついた頃、多川先生がやって来た
「2人とも勉強は順調か?」
「はい。ある程度は終わりました」
「そっか。お前達は帰って良いぞ。」
「まだお昼前なのに良いんですか?」
一応聞いてみる
「あぁ、捺稀達は少し後に帰らせるつもりだ。瑠夏ぱバイトがあるだろ?」
「はい。行くつもりではいますよ」
「気をつけてな?丈瑠も帰って良いって笹川先生から許可が出た」
それだけ告げると重たそうな書類を持ち去って行った
「丈瑠、ご飯食べて帰ろ?」
「あぁ、瑠夏のことだからすぐにバイト行くかと思ってた」
「そんなことはないよ。だってもっと一緒に居たい」
自分で言っといて恥ずかしくなった
「瑠夏ってさ、俺を狂わせるの上手だよな?」
……えっ?
「一緒に居たいなんて言われたら、いくらバイトでも離したくなくなる」
丈瑠はあたしを抱きしめた
「本当のことだもん。あたしは嘘はつかないよ」
……嘘つくの下手だから
「瑠夏さ、本当に大丈夫なのか?」
「何が?」
「家に帰っても辛いだけじゃねぇの?」
心配してくれてるんだね
「辛いけどたまには帰らなきゃ。丈瑠に甘えてばっかりだもん」
あたし丈瑠に何もしてないから本当に申し訳ない
「別に人に頼られるの嫌いではない。瑠夏にはもっと頼って欲しい」
優しすぎるから離れたくないじゃん
だけど、帰らなきゃお母さんが更に機嫌悪くする
「ありがと。電話とかが夜遅くなったりしても相手して欲しいな」
「瑠夏からの連絡ならいつでも待ってる。ご飯食べようか」
あたし達はプリントを片付けてお弁当を食べ始めた
といってもそんなに食欲がない
家に帰らなきゃ。なんて思ったら具合悪い
でも、これ以上…丈瑠に迷惑なんて掛けられない
「顔色悪くなってるぞ」
「大丈夫!!」
「嘘つけ。なんでそんなに強がるんだよ」
「だって、これ以上甘えてしまったらあたしが壊れる」
「俺の前では壊れて良いよ。傍に居るから」
丈瑠は背中を摩ってくれた
……本当は嫌な予感がするから帰りたくない
「バイト行くね」
「じゃあ、帰るか」
あたしは荷物を片付けて丈瑠に支えられながら立ち上がる
「無理はするなよ?」
「うん。分かってる」
「荷物は持ってやるから」
「えっ?良いよ…自分で持つ」
丈瑠から荷物を取ろうとしたが軽々とあたしの届かない位置まで上げられてしまった
「瑠夏は無理しすぎだ。もう少し頼れ」
「だって、丈瑠は自分の荷物もあるのに…」
「そんなことは気にすんな」
ニコッと微笑みあたしの頭を撫でる
あたしは丈瑠の言葉に甘えて荷物を持ってもらうことにした
捺稀達を横目で見てみるとまだ勉強してる
「これは圭輔が終わるまで帰れないな…」
丈瑠は納得している
捺稀さん。お疲れ様です