【完】優しい彼の温もりに包まれて

「迷惑?そんなこと全然思ってないわ。また何かあったら家に来なさい」


「良いんですか?」


彼女でもないのに…


「えぇ。優一も瑠夏ちゃんのこと気に入ってるみたいだし?あの人女の子を見る目は厳しいのよ」


何か意外なんですけど…


「だからいつでもおいでね。沙穂も瑠夏ちゃんが居ると楽しそうだから」


沙穂ちゃんにも会いたいな。


「さて、片付けるわね」


光莉さんは立ち上がり床に散らばったものを片付ける


「すみません。頼ってしまって」


本当、申し訳ない


動きたいんだけど点滴されてて無理なんだよね


「大丈夫よ。仕事は休みだし千絵にも会いたかったのよね」


黙々と片付ける光莉さん


…小野寺家の人達は何処までも優しすぎる
----トントン


「はい」


「瑠夏ちゃんっ」


うわぁ…来た。


「咲那、学校は?」


今は授業中のはず…


「抜けて来たの。先客が居たのか。じゃあ、帰るわ」


今日は何もされない


と安心してたあたしが馬鹿だった


「なぁんて、すぐ帰るわけないじゃん」


----パリーン


咲那は棚の上にある花瓶を割った


せっかく仁菜さんが持ってきてくれたのに


「瑠夏っ!!」


入って来たのは丈瑠


「遅かったか…」


「丈瑠君、なんで瑠夏の為に頑張るの?」


「お前は瑠夏の幼なじみだろ?なのになんでこんなに執着するんだ?」


あたしは光莉さんに抱きしめられたまま2人の話を聞くしか出来なかった


光莉さんも2人の言い争いに驚いている
「こんな奴…幼なじみなんて思ったことない」


てことは、高校入学してあたしを虐めるまで偽って接してたってことか…


じゃあ、あの優しさは嘘だったの?


信じてたのに…


「まぁ、良いや。またね」


咲那は丈瑠に笑顔を振り撒いて去って行った


「丈瑠、あんたいつから知ってたの?」


静かになった部屋で光莉さん聞いた


「いつからって…感づいてたのは前からだけど本人から聞いたのはつい最近。」


「瑠夏ちゃん、本当なの?」


あたしは頷くしか出来なかった


「丈瑠、貴方は学校に戻りなさい。授業終わったら捺稀ちゃん連れて来てくれるかしら?」


丈瑠は渋々学校に戻って行った


「瑠夏ちゃん?どうしたの?」


光莉さんの前でも素直になろう
「こんなこと毎日続いてるんです」


あたしは手や足の傷を見せた


「ずっと我慢してたの?」


「はい…親にも言えなくて。」


やばい…泣きそう


「泣きたいだけ泣きなさい」


あたしは光莉さんに縋り付いて泣き続けた


「落ち着いたかしら?」


「はい…ありがとうございます」


光莉さんはあたしが泣き止むまでずっと摩ってくれていた


「ねぇ…瑠夏ちゃん。貴女のお父さんとも話したんだけど…退院したら家に来ない?」


……えっ?


「休養も兼ねてだけど」


「良いんですか?」


「えぇ。もちろん。沙穂の面倒見て貰うことになるけど良いかしら?」


「はい。あたしで良ければ相手します」


それから光莉さんと他愛のない話をして過ごした
----トントン


「どうぞ」


「瑠夏っ、ただいま」


入って来たのは丈瑠と捺稀


「あら?圭ちゃんは?」


確かに圭輔君の姿がない


「アイツ笹川に呼び出されてた」


素っ気なく答える丈瑠。


でも、圭輔君が呼び出されてることを楽しんでるみたい


「また、提出物出してなかったみたい」


捺稀は捺稀で呆れていた


「私は沙穂の迎えがあるし2人に頼んで良いかしら?」


「分かった」


丈瑠が返事をするとあたしに優しく微笑んで出て行った


「瑠夏、喉渇いてない?」


「そう言われれば…」


「あたし、買ってくるね」


「良いの?この前も買ってもらったのに…」


「良いの。瑠夏だもん」


捺稀は財布だけを持ち出て行った
「ねぇ…丈瑠。1つ我が儘言って良いかな?」


「俺に出来ることならなんでもどうぞ」


----ドキッ///

「あのね…気分転換にお散歩行きたいの」


「確かに病室ばっかりだとつまらないもんな。連れて行ってやるよ」


「ありがと」


丈瑠をちょっと見る良い機会になりそうだ


「ただいま~。はいどうぞ」


捺稀はあたしにお茶を丈瑠にコーヒーを手渡した


「今日はこれくらいしか出来ないけど…今から買い出しに行かなきゃいけないの」


“本当はもっと居て話したいんだけど…”


と寂しそうに言っていた


「良いよ。顔出してくれただけで嬉しい」


「ほんと…?」


「もちろん!!」


「良かったぁ…じゃあね」


捺稀は慌ただしく帰って行った


「帰っちゃった…」


なんか寂しいな
「瑠夏、散歩行くのか?」


「あっ、うん。行きたいな」


「ちょっと千絵さんに許可貰って来る」


丈瑠は千絵さんを探しに行ってしまった


だけどすぐに戻って来てくれた


「近くで遭遇して聞いたら中庭くらいなら大丈夫だってよ。車椅子借りて来た」


中庭に行けるだけで充分


外の空気吸いたかったから…


「ありがと。ごめんね」


「謝るなって。俺が瑠夏の役に立ちたくてしてることだから」


そろそろ返事しなきゃ…


この前、捺稀に相談して本当は気付いてたんだ


……丈瑠が好きなんだって。


だけど、怖くて認めたくなかった。


丈瑠と話してたりちょっとの言葉でドキドキしたり…


あたしでも恋したんだなって実感。


ねぇ…丈瑠。こんなあたしでも好きって言ってくれるの?
「座れるか?」


「うん。大丈夫」


あたしは車椅子に座る


中庭に着きベンチの前に車椅子を止め丈瑠はベンチに腰掛けた


花壇にはたくさんの花が植えられていた


「いつも丈瑠には甘えちゃってごめんね…」


「瑠夏って謝ってばっかりだよな。素直になれば良いのに…言ったじゃん。俺に頼れって。」


何処までも優しい


でも、あたしはその優しさに惹かれたの


丈瑠はありのままのあたしを受け入れてくれた


だから、素直になろうって思えたの


「ねぇ…丈瑠。前々からの返事して良い?」


「答え出たのか?」


あたしは小さく頷いた


「好き…だよ?」


恥ずかしくなって顔を伏せた


「瑠夏、顔上げて?」


……えっ?


顔を上げた途端キスされていた
「いきなり好きって言うなんて不意打ちすぎるんだよ」


少し丈瑠の顔が赤いような気がする


「こんなあたしなんかでも良いの?」


「瑠夏だから良いの。俺、瑠夏しか見てないからな?」


“瑠夏しか見てない”って言われたら恥ずかしい


「不安定になること多いよ?」


「分かってる。俺が傍にいる」


「あたしを選んでくれてありがとね」


「こちらこそ」


あたし達は笑いあった


「強がらずに素直になろうな?」


ポンポンと頭を撫でる丈瑠。


凄く落ち着くんだ


丈瑠の前なら素直になれる気がする


「もう遅いし戻るか」


丈瑠は車椅子を押してくれた


部屋に戻るとテーブルの上に夕食がおいてあった


その夕食を食べ終えると千絵さんがやって来た