丈瑠Side
瑠夏を送って行ったのにまた送って来てもらった
俺は瑠夏のお父さんが運転する車を見えなくなるまで見届けた
…それにしても。
瑠夏のお母さんに対する態度。
びっくりするくらい違った
“態度変えんな”
と冷たく言い放った時の瑠夏の表情が頭に焼き付いて離れない
怒りに満ち溢れていて…
でも、何処か不安げで切なそうな表情だった
本当は寂しいんだ…って思ったんだ。
でも、寂しいなんて言ったら怒られるから強かってる
いろんなことを考えながら家に帰る
「ただいま」
「お兄ちゃん、お帰りなさい。お姉ちゃんは?」
迎えてくれたのは沙穂だった
「沙穂、帰って来てたんだな。瑠夏なら帰ったぞ」
瑠夏が帰ったというと寂しそうな表情をした
「お姉ちゃん、また…来てくれるかな?」
「沙穂が会いたいって言えば来てくれるかも知れないぞ?」
エヘヘっと笑う沙穂
よっぽど瑠夏のこと気に入ってるんだな
「あら…丈瑠、お帰り。瑠夏ちゃん帰ったのね」
奥から母さんが出て来た
「あぁ…送って行ったのに、バス停まで瑠夏のお父さんに送ってもらった」
「瑠夏ちゃん、大丈夫だった?」
「あんまり大丈夫じゃなかったな」
あんな瑠夏…学校でも見たことない
「そう…心配ね。」
表情からして母さんも心配しているのが分かる
「とりあえず、ご飯食べなさい」
沙穂を抱いたままリビングへ向かう
「丈瑠。お帰り」
親父も帰って来てたんだな…
「ただいま。帰ってたんだ」
「あぁ、瑠夏ちゃん帰ったんだな」
瑠夏が居なくなるだけでこんなに静かになるとは思わなかった
「ちょっと沙穂と近くのコンビニまで散歩に行ってくるわね」
沙穂を抱きながらいう母さん
「暗いから気をつけてな」
「行ってきまーす」
沙穂は手を振っていた
ということは親父と2人か…
「丈瑠…お前、瑠夏ちゃんのこと好きだろ?」
…はっ?
沈黙を破った親父
「図星か?お前を見てれば分かるさ」
真剣な顔をする親父に何も言い返すことが出来なかった
「好きな人が居ることは薄々分かってたけど…それが瑠夏ちゃんだったとはな。」
気付かれてた…!?
気付かれないようにしてたのに…
「いつ、確信がついたんだ?」
「俺が初めて瑠夏ちゃんを見た日。あの時のお前が瑠夏ちゃんを見る目は俺と同じだったから」
…意味が分からねぇ。
「愛しいと思ったりしないか?」
確かにそれはあるな
「瑠夏ちゃんが居るとお前らしいもんな」
俺らしい…?
「お前、めったに笑わないから…あんなに優しいお前は初めて見たな」
確かに優しくしたのは瑠夏が初めてだ
あんなに優しい子は居ないから
瑠夏は優しすぎるんだ
俺が笑ったのだってアイツが初めて。
隣に居れば居るほど瑠夏に惹かれていく
俺の隣で笑ってて欲しい
安心させてあげたい
そう思ったのに…
アイツの出現で少しずつ変わっていくんだ
俺が瑠夏の家に行ってからあっという間に2週間が過ぎた
親父に見抜かれてから更に瑠夏を気にすることが多くなった
クラスが違うからなかなか会えないが…
「丈瑠、元気ないな」
とある日の昼休み…
俺の異変に気付いた圭輔が話し掛けて来た
元気ないって良く気づいたな…
さすが幼なじみだ。
昔から一緒に居るだけある
「瑠夏ちゃんのこと?」
コイツ…こういうところは鋭い
「お前、瑠夏ちゃんには優しすぎ。他の女子と比べたら態度が全然違う」
圭輔の言ってることは当たってる
瑠夏のこともあるけど…
「丈瑠君、今日遊べないの?」
ここ何日かでしつこく声を掛けて来る女
……藤室咲那
確か、コイツ…。
瑠夏の幼なじみだ
バスの中で会ったから覚えてる
コイツもクラス違うのにな。
毎日のように寄って来る
「ごめん。無理」
「そんな…即答しなくて良いじゃん」
媚びを売る藤室…
いや、瑠夏と捺稀以外は無理だわ
俺、コイツ苦手だ。
「無理なもんは無理なの」
席を立ち上がり屋上へ行こうとするが…。
「えぇ~相手してよ」
藤室は強引に腕を絡める
「丈瑠君…」
声がする方向を見ると捺稀が立ちすくんでいた
「丈瑠君ね、あたしと遊んでくれるんだって。」
俺、遊ぶなんて一言も言ってねぇよ?
「瑠夏のことで話しがあって来たんだけど」
瑠夏のこと?
何があったんだ?
本当は今すぐに瑠夏のところに行きたい
片想いしてるから心配になる…
でも、コイツが居るせいで行動が限られてくる
どんな手を使ってでも俺と瑠夏を離そうとする
「瑠夏のことはいつでもいいじゃん。ねっ?行こ。」
本当は行きたくねぇ…
「瑠夏、具合悪そうだったから丈瑠君を呼びに来たのに…」
……はっ?
「まぁ、藤室さんが居るなら仕方ないか。あたし行くね」
捺稀は悲しそうな表情をして圭輔と一緒に去って行った
「早く行こうよ~」
「ごめん、無理」
俺は藤室の腕を振りほどき足を進める
「あたし、知らないから。瑠夏の身に何かが起きても…」
コイツの言っていることがイマイチ理解出来なくて。
でも、今はコイツより瑠夏のことの方が気になって屋上へ向かった
----ガチャ
この屋上の扉の音、案外響くんだよな
古いわけでもないんだけど…
見渡してみると隅っこに寝転がりタオルを顔に掛けて寝ている瑠夏の姿
「瑠夏…?」
俺は近寄りに声を掛けてみる
「…ん、何?」
「大丈夫か?」
「大丈夫…じゃない」
瑠夏にしては素直だな
「手を握ってて良い?」
ゆっくりと俺の手を握って来た
瑠夏の手…熱い。
「起き上がれるか?」
俺が聞くとゆっくり起き上がった
「こっちにおいで?」
手を広げるとニコッと笑って抱き着いて来た
「保健室行かないのか?」
「行かない。あたし保健室の先生嫌い」
あの先生…人の好き嫌いが激しい人だからな
俺も好きじゃないけど…
「まだ、丈瑠にこうされてる方が良い」
と呟いて抱きしめる力を強めた
…可愛すぎるんだけど。
しばらくするとリズム良く寝息が聞こえて来たから寝てしまったようだ
俺は自分の制服のブレザーを脱ぎ瑠夏にかける
----ガチャ
「おっ、丈瑠じゃないか。お前サボりか?」
入って来たのは笹川と多川だった
「先生達もサボりですか?」
「俺らは授業ないから息抜きに来ただけだ」
地べたに座りタバコに火をつける笹川
「今、寝てるのって瑠夏だよな?」
そういえば、多川は瑠夏達の担任だったな
「あっ、はい。体調崩してるみたいです」
「やっぱりか。授業中なんか辛そうだったから」
多川も気付いてたんだ