【完】優しい彼の温もりに包まれて

急いで後部座席に座る


「丈瑠君、悪いね。瑠夏を送ってもらって…」


「いいえ。こちらこそせっかく送って来たのに送ってもらってすみません」


「良いんだよ。瑠夏の気分転換もさせたかったからな」


……えっ?


「お前、実頼と2人で居たら喧嘩ばっかだろ?」


実頼とはお母さんの名前


確かに喧嘩ばっかだね。


丈瑠とお父さんは他愛のない話しで盛り上がっていた


「此処で良いのかい?」


お父さんが車を止めたのはあたし達が乗ったバス停だった


「はい。ありがとうございます」


「気をつけて帰るんだよ」


「分かりました。瑠夏、じゃあな。」


丈瑠はあたしの頭をポンポンと撫で去って行った


丈瑠に撫でられるのは嫌いではない
むしろ、丈瑠の手の温もりは落ち着く


「丈瑠君だっけ?いい子だな。瑠夏が心を開いた子のは男の子で初めてじゃないか?」


お父さん、良く見てる


「そうだね。どう接したら良いか分からない」


「瑠夏は瑠夏らしく接してれば良いさ。」


そうかな?優しすぎて怖いけど…話し始めてそんなに経ってないから」


「俺から見て感じの良い子だと思ったけどな。コンビニ寄って帰ろう」


お父さんの思い付きでコンビニに寄ることとなった


「いつものヤツでいいよね」


千円札を貰い新聞とコーヒーとお茶を購入する


「ありがとな」


あたしは新聞とコーヒーをお父さんに渡した


それからはお父さんに丈瑠ん家でのことなど近況報告をしつつ久しぶりのドライブを楽しんだ
君が好きじゃなくても…


俺が隣に居たくて。


安心させてあげたい…


傍に居たい…


って思ったのは君が初めてだった


俺は…何があっても君の隣にいるよ
丈瑠Side


瑠夏を送って行ったのにまた送って来てもらった


俺は瑠夏のお父さんが運転する車を見えなくなるまで見届けた


…それにしても。


瑠夏のお母さんに対する態度。


びっくりするくらい違った


“態度変えんな”


と冷たく言い放った時の瑠夏の表情が頭に焼き付いて離れない


怒りに満ち溢れていて…


でも、何処か不安げで切なそうな表情だった


本当は寂しいんだ…って思ったんだ。


でも、寂しいなんて言ったら怒られるから強かってる


いろんなことを考えながら家に帰る


「ただいま」


「お兄ちゃん、お帰りなさい。お姉ちゃんは?」


迎えてくれたのは沙穂だった


「沙穂、帰って来てたんだな。瑠夏なら帰ったぞ」


瑠夏が帰ったというと寂しそうな表情をした
「お姉ちゃん、また…来てくれるかな?」


「沙穂が会いたいって言えば来てくれるかも知れないぞ?」


エヘヘっと笑う沙穂


よっぽど瑠夏のこと気に入ってるんだな


「あら…丈瑠、お帰り。瑠夏ちゃん帰ったのね」


奥から母さんが出て来た


「あぁ…送って行ったのに、バス停まで瑠夏のお父さんに送ってもらった」


「瑠夏ちゃん、大丈夫だった?」


「あんまり大丈夫じゃなかったな」


あんな瑠夏…学校でも見たことない


「そう…心配ね。」


表情からして母さんも心配しているのが分かる


「とりあえず、ご飯食べなさい」


沙穂を抱いたままリビングへ向かう


「丈瑠。お帰り」


親父も帰って来てたんだな…
「ただいま。帰ってたんだ」


「あぁ、瑠夏ちゃん帰ったんだな」


瑠夏が居なくなるだけでこんなに静かになるとは思わなかった


「ちょっと沙穂と近くのコンビニまで散歩に行ってくるわね」


沙穂を抱きながらいう母さん


「暗いから気をつけてな」


「行ってきまーす」


沙穂は手を振っていた


ということは親父と2人か…


「丈瑠…お前、瑠夏ちゃんのこと好きだろ?」


…はっ?


沈黙を破った親父


「図星か?お前を見てれば分かるさ」


真剣な顔をする親父に何も言い返すことが出来なかった


「好きな人が居ることは薄々分かってたけど…それが瑠夏ちゃんだったとはな。」


気付かれてた…!?


気付かれないようにしてたのに…
「いつ、確信がついたんだ?」


「俺が初めて瑠夏ちゃんを見た日。あの時のお前が瑠夏ちゃんを見る目は俺と同じだったから」


…意味が分からねぇ。


「愛しいと思ったりしないか?」


確かにそれはあるな


「瑠夏ちゃんが居るとお前らしいもんな」


俺らしい…?


「お前、めったに笑わないから…あんなに優しいお前は初めて見たな」


確かに優しくしたのは瑠夏が初めてだ


あんなに優しい子は居ないから


瑠夏は優しすぎるんだ


俺が笑ったのだってアイツが初めて。


隣に居れば居るほど瑠夏に惹かれていく


俺の隣で笑ってて欲しい


安心させてあげたい


そう思ったのに…


アイツの出現で少しずつ変わっていくんだ
俺が瑠夏の家に行ってからあっという間に2週間が過ぎた


親父に見抜かれてから更に瑠夏を気にすることが多くなった


クラスが違うからなかなか会えないが…


「丈瑠、元気ないな」


とある日の昼休み…


俺の異変に気付いた圭輔が話し掛けて来た


元気ないって良く気づいたな…


さすが幼なじみだ。


昔から一緒に居るだけある


「瑠夏ちゃんのこと?」


コイツ…こういうところは鋭い


「お前、瑠夏ちゃんには優しすぎ。他の女子と比べたら態度が全然違う」


圭輔の言ってることは当たってる


瑠夏のこともあるけど…


「丈瑠君、今日遊べないの?」


ここ何日かでしつこく声を掛けて来る女


……藤室咲那


確か、コイツ…。


瑠夏の幼なじみだ
バスの中で会ったから覚えてる


コイツもクラス違うのにな。


毎日のように寄って来る


「ごめん。無理」


「そんな…即答しなくて良いじゃん」


媚びを売る藤室…


いや、瑠夏と捺稀以外は無理だわ


俺、コイツ苦手だ。


「無理なもんは無理なの」


席を立ち上がり屋上へ行こうとするが…。


「えぇ~相手してよ」


藤室は強引に腕を絡める


「丈瑠君…」


声がする方向を見ると捺稀が立ちすくんでいた


「丈瑠君ね、あたしと遊んでくれるんだって。」


俺、遊ぶなんて一言も言ってねぇよ?


「瑠夏のことで話しがあって来たんだけど」


瑠夏のこと?


何があったんだ?


本当は今すぐに瑠夏のところに行きたい


片想いしてるから心配になる…