「何処行ったって良いじゃん」
咄嗟に靴を脱ぎ部屋に行こうとした時…
-----バシッ
丈瑠に腕を捕まれた
「すみません。俺が連れ回してました。瑠夏は俺ん家に居たんです」
「あら、そう?」
丈瑠の言葉に表情を変えるお母さん
「態度変えんな。」
あたしは低い声で冷たく言い放って部屋に向かった
だから帰りたくなかった
文句を言われるのは分かってたから…
----トントン
……誰?
「瑠夏、入るそ?」
お茶とお菓子の乗ったお盆を抱えた丈瑠がやって来た
「大丈夫か?」
「うん。ごめんね…びっくりしたでしょ?」
これが母親の前でのあたし
「あぁ、凄い変わりようだったな」
やっぱり、びっくりするよね…
「だから帰りたくなかったの」
小さく呟くと丈瑠は頭を撫でてくれた
---トントン
今度は誰!?
「瑠夏、居るかい?」
入って来たのはお父さん
「あっ、お帰りなさい」
「ただいま。やっと戻って来たんだね」
お父さんも心配していたのが分かる
「ごめんなさい。俺が家に連れ込んで…」
「君が丈瑠君かい?」
「はい」
小さな返事をしたら沈黙になった
「瑠夏がお世話になったね」
「いいえ。こっちこそ妹の世話してもらって助かってました」
2人で話しを進めていく
「家まで送ろうか」
しばらく他愛のない話しをしていたらお父さんが言い出した
「良いんですか?」
「あぁ…構わないよ。瑠夏、久しぶりにドライブ行くか」
お父さんが誘うなんて珍しい
「うん。分かった…」
「じゃあ、準備しとけ」
お母さんの前を通りたくないよ
咄嗟に丈瑠君の制服の裾を掴んだ
「大丈夫。何かあったらまた家に来れば良い」
……優しすぎるよ
「2人とも行くぞー?」
下から叫ぶお父さん
「急に押しかけてごめんな」
「ううん、良いの。こちらこそありがとう」
2人揃ってお父さんのところに向かう
「あら、もう帰るの?」
リビングから出て来たお母さん
「あっ、はい。お邪魔しました」
「また、いらっしゃいね」
お母さんはニコッと微笑む
めったにあたしに微笑むことないのに…
「丈瑠、行こう」
あたしは丈瑠の手を引き玄関を出た
「さぁ、乗りな」
お父さんは駐車場で待っていた
急いで後部座席に座る
「丈瑠君、悪いね。瑠夏を送ってもらって…」
「いいえ。こちらこそせっかく送って来たのに送ってもらってすみません」
「良いんだよ。瑠夏の気分転換もさせたかったからな」
……えっ?
「お前、実頼と2人で居たら喧嘩ばっかだろ?」
実頼とはお母さんの名前
確かに喧嘩ばっかだね。
丈瑠とお父さんは他愛のない話しで盛り上がっていた
「此処で良いのかい?」
お父さんが車を止めたのはあたし達が乗ったバス停だった
「はい。ありがとうございます」
「気をつけて帰るんだよ」
「分かりました。瑠夏、じゃあな。」
丈瑠はあたしの頭をポンポンと撫で去って行った
丈瑠に撫でられるのは嫌いではない
むしろ、丈瑠の手の温もりは落ち着く
「丈瑠君だっけ?いい子だな。瑠夏が心を開いた子のは男の子で初めてじゃないか?」
お父さん、良く見てる
「そうだね。どう接したら良いか分からない」
「瑠夏は瑠夏らしく接してれば良いさ。」
そうかな?優しすぎて怖いけど…話し始めてそんなに経ってないから」
「俺から見て感じの良い子だと思ったけどな。コンビニ寄って帰ろう」
お父さんの思い付きでコンビニに寄ることとなった
「いつものヤツでいいよね」
千円札を貰い新聞とコーヒーとお茶を購入する
「ありがとな」
あたしは新聞とコーヒーをお父さんに渡した
それからはお父さんに丈瑠ん家でのことなど近況報告をしつつ久しぶりのドライブを楽しんだ
君が好きじゃなくても…
俺が隣に居たくて。
安心させてあげたい…
傍に居たい…
って思ったのは君が初めてだった
俺は…何があっても君の隣にいるよ
丈瑠Side
瑠夏を送って行ったのにまた送って来てもらった
俺は瑠夏のお父さんが運転する車を見えなくなるまで見届けた
…それにしても。
瑠夏のお母さんに対する態度。
びっくりするくらい違った
“態度変えんな”
と冷たく言い放った時の瑠夏の表情が頭に焼き付いて離れない
怒りに満ち溢れていて…
でも、何処か不安げで切なそうな表情だった
本当は寂しいんだ…って思ったんだ。
でも、寂しいなんて言ったら怒られるから強かってる
いろんなことを考えながら家に帰る
「ただいま」
「お兄ちゃん、お帰りなさい。お姉ちゃんは?」
迎えてくれたのは沙穂だった
「沙穂、帰って来てたんだな。瑠夏なら帰ったぞ」
瑠夏が帰ったというと寂しそうな表情をした
「お姉ちゃん、また…来てくれるかな?」
「沙穂が会いたいって言えば来てくれるかも知れないぞ?」
エヘヘっと笑う沙穂
よっぽど瑠夏のこと気に入ってるんだな
「あら…丈瑠、お帰り。瑠夏ちゃん帰ったのね」
奥から母さんが出て来た
「あぁ…送って行ったのに、バス停まで瑠夏のお父さんに送ってもらった」
「瑠夏ちゃん、大丈夫だった?」
「あんまり大丈夫じゃなかったな」
あんな瑠夏…学校でも見たことない
「そう…心配ね。」
表情からして母さんも心配しているのが分かる
「とりあえず、ご飯食べなさい」
沙穂を抱いたままリビングへ向かう
「丈瑠。お帰り」
親父も帰って来てたんだな…
「ただいま。帰ってたんだ」
「あぁ、瑠夏ちゃん帰ったんだな」
瑠夏が居なくなるだけでこんなに静かになるとは思わなかった
「ちょっと沙穂と近くのコンビニまで散歩に行ってくるわね」
沙穂を抱きながらいう母さん
「暗いから気をつけてな」
「行ってきまーす」
沙穂は手を振っていた
ということは親父と2人か…
「丈瑠…お前、瑠夏ちゃんのこと好きだろ?」
…はっ?
沈黙を破った親父
「図星か?お前を見てれば分かるさ」
真剣な顔をする親父に何も言い返すことが出来なかった
「好きな人が居ることは薄々分かってたけど…それが瑠夏ちゃんだったとはな。」
気付かれてた…!?
気付かれないようにしてたのに…