「あの子なら送って行くはずだから大丈夫」
今日から何日か休みにしてくれた
橋村さん曰く、“頑張りすぎ”だそうだ
丈瑠と沙穂ちゃんが迎えに来てくれた次の日には仁菜さんからの質問攻め
「あのイケメンって本当に同級生なの?」
って連呼された。
確かに丈瑠はカッコイイ
全く染めてない真っ黒な髪を無造作に固めてある
そして女の子に負けないくらいクリクリとした目
あたしが気付かなかっただけで丈瑠は人気があるらしい
興味がなかっただけなんだけどね
素っ気ないところがクールでカッコイイんだってさ…
全然、素っ気なくないし。
むしろ、優しすぎて怖いくらい
「瑠夏ー?学校行くぞ」
遠くで叫ぶ丈瑠。
「もう、そんな時間?朝から手伝わせてごめんね。いってらっしゃい」
光莉さんは一旦洗い物を中断して見送ってくれた
「丈瑠、学校終わって帰って来たら瑠夏ちゃん送って行きなさい」
「あぁ、分かった」
あら…あたしてっきり“なんで俺が?”なんて言うと思ってたわ。
あっさり承諾してるし…
「お姉ちゃん、抱っこ!!」
「沙穂は瑠夏ちゃんにベッタリね」
うふふっと笑う光莉さん
「早く行かなきゃ遅れるよ」
圭輔君も居たんだね
光莉さんの手伝いをしてたから気付かなかった
それから沙穂ちゃんを保育園に送り普通に授業を聞き休み時間は捺稀とお喋りをしてたら…
あっという間に放課後。
帰りたくないけど帰らなきゃ…
一旦、小野寺家に帰り荷物をまとめる
「瑠夏、忘れ物ないか?」
「…多分、大丈夫。」
「じゃあ、行くぞ?」
丈瑠は財布と携帯を制服のポケットの中に入れた
そして、大きな荷物は持ってくれたの
光莉さんに挨拶したかったけど仕事で居ない
「本当に良かったの?送ってもらって…」
バス停に向かう途中に聞いてみた
「別に苦じゃないし、たまには気分転換もしないとな」
そう言って丈瑠はあたしの頭を撫でる
そしてちょうど来たバスに乗り込む
「前の方、行っていい?」
丈瑠は小さく頷いた
時間帯が遅いだけあって葉月高校の生徒がたくさん乗っている
「瑠夏、座りな。」
1つだけ空いていた席を見つけあたしに譲ってくれた
「あっ、瑠夏じゃん!!」
後ろから聞こえた声。
それは咲那だった…
丈瑠が居るところでは出来るだけ逢いたくなかった
「咲那、お疲れ。部活は?」
「今日は先生居なくて休み。てか、君…小野寺君だっけ?よろしくね」
咲那はそれだけ告げるとバスを降りてしまった
「君、この前の子だよね?」
「末岡さん?」
「あっ、覚えててくれたんだっ。嬉しいなぁ」
なんとバスを運転していたのは最近仲良くなった末岡さんだった
「瑠夏、この人知ってるのか?」
「うん。話し出したのは最近なんだけどね。葉月高校の先輩だよ」
不思議そうな顔をした丈瑠に説明した
「君、瑠夏ちゃんって言うの?」
名前教えてなかったっけ?
「あっ、はい。山岸瑠夏です。」
軽く自己紹介をする
「瑠夏ちゃんね。良かった、名前聞けて。君は?」
末岡さんは丈瑠に問い掛けた
「小野寺丈瑠です。よろしくお願いします。」
「丈瑠って呼んでも大丈夫?」
「あっ、はい。どうぞ」
「俺、末岡郁弥。よろしくな」
3人で他愛のない話しをしてバスを降りる
「瑠夏ん家ってどの辺?」
バス停で休憩してる間に丈瑠君が聞く
「此処から上らなきゃいけないんだ」
あたしは坂道を指差す
「結構、遠いんだな。」
「この辺りって来たことある?」
「いや、来たことない」
初めてなんだね…
「とりあえず、行こ」
荷物を持ち足を進める
「良いとこじゃん。」
景色を見ながら呟く丈瑠
「丈瑠のとこに比べたら田舎の方だよ」
住んでる地域はは賑やかな場所なんだけどあたしの家は山の中にある
だからバス停までが遠いんだ
ゆっくり喋りながら家へと帰る
「あたしん家此処なんだ」
小さい2階建ての家
「バスの時間まで時間あるから上がっていったら?」
「良いのか?電話で話したけど親父さんと話してみたいしな」
「うん。多分、お父さんはすぐに帰って来るよ」
あたしは開けたくないけど玄関のドアに手を掛けた
「ただいま」
-----ドタドタ
「瑠夏!!あんた今まで何処行ってたの??」
眉間にシワのよったお母さんが出て来た
「何処行ったって良いじゃん」
咄嗟に靴を脱ぎ部屋に行こうとした時…
-----バシッ
丈瑠に腕を捕まれた
「すみません。俺が連れ回してました。瑠夏は俺ん家に居たんです」
「あら、そう?」
丈瑠の言葉に表情を変えるお母さん
「態度変えんな。」
あたしは低い声で冷たく言い放って部屋に向かった
だから帰りたくなかった
文句を言われるのは分かってたから…
----トントン
……誰?
「瑠夏、入るそ?」
お茶とお菓子の乗ったお盆を抱えた丈瑠がやって来た
「大丈夫か?」
「うん。ごめんね…びっくりしたでしょ?」
これが母親の前でのあたし
「あぁ、凄い変わりようだったな」
やっぱり、びっくりするよね…
「だから帰りたくなかったの」
小さく呟くと丈瑠は頭を撫でてくれた
---トントン
今度は誰!?
「瑠夏、居るかい?」
入って来たのはお父さん
「あっ、お帰りなさい」
「ただいま。やっと戻って来たんだね」
お父さんも心配していたのが分かる
「ごめんなさい。俺が家に連れ込んで…」
「君が丈瑠君かい?」
「はい」
小さな返事をしたら沈黙になった
「瑠夏がお世話になったね」
「いいえ。こっちこそ妹の世話してもらって助かってました」
2人で話しを進めていく
「家まで送ろうか」
しばらく他愛のない話しをしていたらお父さんが言い出した
「良いんですか?」
「あぁ…構わないよ。瑠夏、久しぶりにドライブ行くか」
お父さんが誘うなんて珍しい
「うん。分かった…」
「じゃあ、準備しとけ」
お母さんの前を通りたくないよ
咄嗟に丈瑠君の制服の裾を掴んだ
「大丈夫。何かあったらまた家に来れば良い」
……優しすぎるよ
「2人とも行くぞー?」
下から叫ぶお父さん
「急に押しかけてごめんな」
「ううん、良いの。こちらこそありがとう」
2人揃ってお父さんのところに向かう
「あら、もう帰るの?」
リビングから出て来たお母さん
「あっ、はい。お邪魔しました」
「また、いらっしゃいね」
お母さんはニコッと微笑む
めったにあたしに微笑むことないのに…
「丈瑠、行こう」
あたしは丈瑠の手を引き玄関を出た
「さぁ、乗りな」
お父さんは駐車場で待っていた