彼女は涙目を大きく見開いて僕を見る。そして、少し微笑みながらこう言った。


「うん、海に帰りたい。私の大切な人達の待っている場所へ…でも、もうそれはできなく
なってしまった。ねぇ、泡になるためにはどうすればいいのかな」


遠くを見つめる彼女は、今海に入ってしまったら本当に泡になって消えてしまいそうで僕は怖くなった。



「悲しいことがあったんだね。でも泡になんかならないで、お願いだから消えないで…泳ぐの好きなんでしょ。君が泳いでいるのを見ていたら、水に愛されてるのかなぁ…なんて思ったんだ。だから、泡になったらもう、泳げないじゃない」



僕の頬に海風がやさしく撫でていった。


「僕も、僕もさ…少し前は鳥だったんだ…でも、今は飛べなくなった。飛べない鳥はどうしたらいいんだろうって毎日海を見ながら考えてる。残念だけどまだわからないんだ。でも、きっといつかわかる日が来ると思うんだ。だから、君も…」



…なぜ、こんなことを言ってしまったんだろう…きっと変人って思われるよな…でも、彼女なら僕の悲しみや苦しみもわかってくれるような気がする…いやわかってくれなくてもいい、ただ、誰にも話したことのない僕の本当の気持ちを…



沈黙が僕の頭の中で色々な考えを巡らせる。