僕は彼女を見つめながら、人魚姫のお話を思い出していた。


…たしか、王子に会うために声と引き換えに足をもらうんだよな。


でも、王子と結ばれることができなかったから、海の泡になっちゃうんだよな…


…まさか…


僕はもう一度彼女に声をかけた。


「どうして泣いてるの?」


彼女からの答えはなく、ただ波の音だけが繰り返し聞こえた。


風が海の向こうから闇を連れてきた。


夕やけだった空がだんだん深い色に変わっていく。


まるで海の中にいるようで息が苦しくなって、思わず大きく深呼吸した時だった。


「…何もかも失くしてしまった。帰るべき場所も…もうどうしたらいいの…」



「海に帰りたいの?」


「どうして海って?」


「だって君、人魚でしょ…」


思い切りマジで聞いた。だって、彼女を見ていると本当にそう思ったから…