「ありがとう…」


彼女はまた涙声になっていた。


あたりはすっかり暗くなり、桟橋を照らす小さな街灯もついた。


「ありがとう…」


彼女はもう一度言った。今度は涙声ではなかった。


「もう、帰らなきゃね…」


僕が桟橋からゆっくり立ち上がろうとした時だった。


「ねぇ、飛ぶってどんな気分なの?」


「そうだなぁ…空と一体になるって感じかな」


僕はあの感覚を思い出してそう言った。


「私も飛んでみたいな。ねぇ、あの、もう一度飛べたらと思う?もう一度、空を…」


彼女の言葉が終わる前に僕は言った。


「もちろん」


僕の声が大きすぎた。


思わず、二人で声を出して笑った。