「だからさ、翠。一緒に、甲子園に行こうな」


うん。


あたし、いつも見てるから。


見てるよ、補欠のこと。


補欠の笑顔ですら、次第にかすんでいく。


そして、ふつりと消えてしまった。


うっすらと目を開けると、体がぐらぐら揺れていた。


今のは……夢だったのか。


それとも、幻覚か。


夢でも幻覚でも、何でもいい。


もう話せないと思っていたのに、今、確かにあたしは補欠と話した。


例え、夢の中だとしても。


「心拍数低下! もう、限界ですよ! 脈が触れなくなります」


「心臓マッサージの準備」


やかましい。


どうやら、ここは救急車の中らしい。


ふと、視線を投げやる。


曇った窓ガラスのカーテンの隙間から、淡い光が差し込んできた。


ああ。


眩しいね、まったく。


ピリリ……機械的な音がけたたましく鳴り響く車内。


「血圧、65……」


眩しかったよ、ほんとにさ。


あたしの人生は、ほんっとうに眩しくてさ。


「翠ーっ!」


母の悲鳴を最後に、あたしは目を閉じた。


眩しくてたまらなかったよ。


何もかも、全部が眩しくて、幸せだった。