そして、白い野球帽を取り、左手をすうっと突き上げた。


あの、太陽が煌めく青空に。


「翠!」


笑顔の補欠が、どろんこのユニフォーム姿で駆け寄って来る。


ふと視線を隣に流すと、フェンス横で黄色い花が青空を仰いでいた。


その元気な花が、夏の風に揺れる。


「翠!」


笑顔で走り寄る補欠に視線を戻して、あたしは微笑んだ。


「補欠」


さよなら。


補欠。


あたしの恋は、死にものぐるいの恋だった。


けれど、ありふれた人生を金色に色づけるような、眩しい眩しい恋でした。


本当に、大好きだった。


あたしがこの命をかけて愛したように。


夢中で、死にものぐるいの恋をしたように。


響也。


あなたもまた、誰かを愛せますように。


それだけを願っています。



夏の空を、雲が流れて行く。


「翠」


息を切らしながら駆け寄ってきた補欠が、フェンス越しにくすぐったそうに微笑む。


「おれが連れてってやるから。甲子園に」


風になびく髪の毛をそっと押さえて、あたしは微笑みを返して頷いた。


「だから、そこから見てて」


補欠がフェンスに手を押し当てる。


「あの太陽みたいに笑ってさ。おれのこと、見てて」


フェンス越しに、あたしは手を重ねた。


そして、頷く。


うん。


見てるから。


「おれが、絶対連れてってやる」


フフ、と補欠が笑う。


優しい目を半分にして。