大きな花弁びらのような雪が、一面を純白に染めて行く。


かすむ景色から、色が失われていく。


同時に、体がふわふわ宙に浮き始めた。


「あっ……翠? 翠!」


母に答えたいのに、もう、手に力が入らない。


「お母さん! 搬送します」


「……いいです! いいんです……」


ぐらりと歪んだ雪景色がぐるぐる回る。


回って回って、回り続けて消えて行く。


あたしは、目を閉じた。


「翠! 翠っ」


遠くで声がする。


これもまた夢なのか現なのか、ぼんやりとして判別できない。


ただ、遠のく意識の中で、これだけは分かる。


大好きな彼との別れの時が、ついに、来た。


今さらもう、泣き叫んだりしない。


目を反らしてごまかそうとしたりしないよ。


ああ、でも……どうしよう。


まだ伝えきれていない事がたくさんあるのに。


「翠ーっ!」


残りはどうやって伝えればいいの。


もう、会えないことは分かっているのに。


あたしは最後の力を使い果たした。


目を上げて、本能のままに手を伸ばす。


つるりと涙が頬を伝う。


悔しいよ、ほんとにさ。


雪雲の隙間から、燦然とした光が金色に輝きながら降りてくる。


光が、世界中に散っていく。


ねえ、補欠。


あたし、今……本当に胸がいっぱいなの。