「あんたは、どこに居てもあたしの自慢の娘だよ……いいね」


ほら、と母があたしの手を、雲の切れ間から見えるわずかな陽射しに掲げる。


「あんたは太陽だね。翠。眩しくて、涙が止まんねえよ、翠」


あたしだって、同じだよ。


涙が止まんねえよ、お母さん。


「あの、お母さん」


声を掛けて来た隊員に、母は涙声で怒鳴るように言った。


「だから、黙ってろって言っただろ! ……好きにさせてやってよっ……もう、この子の好きに」


雲がはけていく。


ふわふわ降りて来る、牡丹雪。


陽射しが、ひと粒ひと粒をキラキラ輝かせていた。


……あ。


その中に、ひときわ明るい光に包まれて降りて来る牡丹雪を見つけた。


それはあたしの指先で割れて、幾千もの結晶に砕け、小さな粒子になって散った。


世界が太陽色の結晶に包まれたような気がした。


こんな時に思い出したのは、真夏のグラウンドにたたずむユニフォーム姿の彼だった。


彼はあの日、ひとりマウンドに残り、眩しそうに青空を見つめていた。


……そんな姿が、ふと、目に浮かんだ。


「……ほけ……つ」


ごめんね。


あたしも、どうやら、ダメみたいです。


あたしには分かるんだ。


もう……最期なんだって事くらい。


涙が頬を流れ落ちる。


どうやらもう、そこには行けないらしい。


くるくる、くるくる、ワルツを舞うように回転しながら降りて来る雪と光の結晶に、あたしは手をのばした。


掴んだと思ったらそれは雪の欠片で、空を切るばかり。


もう一度、掴んでみる。


光を掴んでみる。