隊員があからさまに顔を歪めた。


「いや、でも、このままでは」


「急がないと、お母さん!」


「うるさいよ! 黙ってっ……ちょっと黙っててくんないかなあ!」


母が睨んで訴えると、隊員たちはお互いの顔を見合わせたあと、小さく背中を丸めた。


「悪いね、すみません。でもさ、この子が……いいって言うんだよ」


困ったね、まったく、そう言って、母はすすり泣きながら、あたしを抱きしめた。


お母さん、最後の最後までごめんね。


でも、あたし、後悔はしないよ。


あたし、お母さんの子供に生まれて来れて、本当に幸せ。


一番の自慢。


高校捨ててまで産んでくれたのに、こんなどうにもなんない娘でごめん。


ありがとう。


もし、お母さんが産んでくれなかったら、生きることがこんなにも幸せだって事も分からなかった。


産んでくれたから、大切なみんなと出逢えた。


……だから、彼と、出逢った。


「……きょ……や」


彼に恋をする事もなかったんだと思う。


涙があふれる。


今まで感じていた虚無の白さとは明らかに違う陽射しが、辺り一面を照らしすっぽり包み込む。


教室の片隅に溜まる、ひだまりのように。


雲の切れ間から幾重にもなって降り注ぐ、光の束のように。


やわらかな日差しが、降りて来る。


その光に手を伸ばした。


指先に集まった光が細かく粉々に砕け散り、一面にまんべんなく広がって行く。


ああ……眩しい。


かくりと落ちかけたあたしの腕を捕まえて、


「翠……生まれて来てくれて、ありがとねえ」


空に向かって突き上げる。