ごめんね、補欠。


あたし……行けそうにないや。


たぶん、もう……会えない。


「翠、救急車来たからな! しっかりな!」


空を切る手をパシッと捕まえた母を、あたしは見つめた。


「……ごめ……おかあ……」


もう最後かもしれないと思うと、怖いものなんてない。


ごめんね、お母さん。


「え、何? 何……」


母の涙がぽつぽつと落ちて来て、あたしの涙と混ざり、頬を落ちる。


手からするすると力が抜けて行く。


すぐそこで、サイレンだピタリと鳴りやんだ。


「おか……」


「……翠?」


目を大きく見開く母を見つめながら、あたしは小さく小さく、残されたありったけの力を使って、首を左右に振った。


いいから。


もう、いいんだ。


あたしのために涙を使わないで欲しい。


どうか、笑って欲しい。


お母さん。


「あ……たし……」


「うんっ」


母の美しい顔が、涙でボロボロだった。


あたしははああーっと息を吐いた。


「いい……じんせ……」


ああ、いい人生だったなあ。


「……あんた、何バカな事言ってんのさ!」


母が、毛布の上からあたしの体を手加減なしにバカスカ叩く。


「そんなの許さん! 母は許さないからな! 本当に怒るぞ!」


怒ってから言うなよ。