その時、ふと、風がやんだ。


冬の重い雲に太陽が隠れる。


辺りは一面白くて、とてもとても静かになった。


また、夢の中に来てしまったんだろうか。


きっとそうだ。


まったく、まったく。


最近のあたしときたら、変な夢ばかり見るな。


よし、もう一回眠ろう。


そうすれば、次に目が覚めた時、世界は色づいているだろうから。


あたしは真っ白な空に片手を伸ばしたままそっと目を閉じた。


その瞬間、


『己の信じる道を、真っ直ぐ生きる事が出来たかい』


その声が聞こえた。


懐かしい声だった。


聞こえた、というよりは、突然現れた、そんな感じだ。


耳に入って来たというより、どこからともなく直接、ガーンと頭に響いた。


この声が近くで聞こえたものなのか、遠くから落とされたものなのか、それすら見当がつかない。


『人生を全うできたのか』


ただ、あたしは知っていた。


何が何なのかよく分からないこの状況の中で、これだけは確信したし自信があった。


『そろそろ、教えてくれないか』


何を?


『翠が生きた、そちらの世界の話を聞かせてくれないか』


うん。


あたしは、こくりと頷いた。


『そうか。楽しみだなあ』


だって、それは紛れもなく、あたしが大好きだった父の声だった。


これは、幻聴なのだろうか。


もしくは、あたし自身が常々願っていた事が本当になったのか。


父に会いたい。


あたしの話を聞いて欲しい。


あたしの思いが強すぎて、ついに幻聴が聞こえたのだろうか。


そうなんだと思う。


だって、父はもう、この世にはいない。