……なんだ、きのせいか。


「翠! 良かった……みどりー……」


もうすぐ救急車来るから、と母が泣き顔で覗き込んで来る。


なんだよ、いいオトナが。


泣くな、お母さん。


母の顔に手を伸ばそうと腕を伸ばした……のに、動かない。


でも、もう片方の腕が動きそうな気がして、


「……う」


力ずくで伸ばした。


すうっと伸びたあたしの手を、母の手がとっさに捕まえる。


「何だ! どうした、無理すんじゃないよ」


分かってる。


だけど、別にそんなんじゃない。


ただ、あのお日様に触れてみたいだけだ。


しんしんと降りしきる牡丹雪を金色に輝かせる、あの太陽に。


今なら、届きそうな気がした。


雲の白、雪の白、冬の陽射しさえも白くて。


見渡す限り前後左右、上も下も、どこもかしこも純白に彩られている。


目がちかちかする。


あたしは今、確かに呼吸しているし、ちゃんと景色を見ている。


でも、どうしてか、呼吸をしている気がしない。


伸ばした手の先で、牡丹雪が粉々に砕け散った。


目に映る物全てがとにかく白すぎて、目がおかしくなりそうだ。


くらくらする。


あたしの体はしっかりと母に抱かれているというのに、ふわふわと宙に浮いているような感覚だ。


母の手をすり抜けて、あたしはゆっくり手を伸ばした。


冬の陽射しが手に集まってくる。


この真っ白な世界を、あたしは以前、確かに見た事がある。


夢にすぎなかったのかもしれないけれど、確かに。