「何やってんだよ……響ちゃんと映画観るんだろ? なあ、翠!」


ああ、そうだそうだ。


しっかり、あたし。


行かなきゃ。


補欠が待ってる。


約束、してるんだから。


それに、伝えたい事がまだまだあるの。


涼子先輩からの電話。


明里が新しい一歩を踏み出した事。


明日は、久しぶりに明里と結衣と花菜ちんと会える事。


あと……。


今まで隠しててごめんね、って。


卒業したら東京へ行って、手術を受ける事。


だから、待っていて欲しいって。


それで、ずっと一緒にいようねって。


だから、こんなところでのたばってる場合じゃない。


行かなきゃ、補欠が待ってる。


重い体にムチを打って、あたしは目を開けた。


「……」


不思議な景色だった。


17年間生きて来たこの人生で、初めて見る景色だった。


灰色と白のグラデーションが広がる空からは、相変わらずの大粒の牡丹雪。


でも、僅かな隙間から青空が見えて、冬の陽射しが木漏れ日のように筋になって降りて来る。


光を受けた雪片が、息を飲むほどの眩さを放ちながら舞い降りてくる。


姿を現そうとするお日様と白い雲。


それを覆い隠そうとする灰色の雪雲。


それらのわずかの隙間に、深い青空が見えた。


どくん。


心臓が大きな脈を打った。


その青空に、補欠の横顔が一瞬見えた気がして、あたしは一度だけ瞬きをした。