耳元がゴウゴウ唸る。


雪と風が頬をかすめながら吹いている。


そんなに強い風でもないのに、音がやけにはっきりしていた。


「翠! しっかりしろ!」


母の必死の声を聞いて、ようやく理解した。


ああ、そうか……あたし、また倒れたのか。


そっかあ。


どうりでしんどいはずだ。


「やだ! ねえ、ちょっとっ……誰か、救急車!」


救急車呼んで!


母の声が耳を突き抜ける。


「助けてよ! この子、あたしの大事な娘なんだよっ……頼むよ!」


誰か助けてよ!


母の声はもうかすれにかすれて、我を失ったように悲鳴という領域を超えていた。


酷い声だった。


バシッと音がした瞬間、痛烈な痛みが頬に走った。


「やだよ! あたしはやだからな! しっかりしろ、翠!」


毛布ごとあたしを抱きしめる母の涙が頬の落ちる。


あったかいなあ。


あたしの頬が冷たすぎるのか、母の涙が熱すぎるのか、全く判別できない。


あれほどの頭痛ですら、もうあまりよく分からなくなっていた。


「目え開けな! 翠! バカたれが!」


ただ、母のぬくもりだけが、やけにはっきりしていた。


お母さん……ごめんね。


何だって、この期に及んで、こんなことになるんだろうな。


やってらんねえよな。


「しっかりしな! 翠!」


あたしだって、こんなの嫌だよ。


お母さんを泣かせるような事だけは、どうしても嫌だったのに。


でも、もう、どうにもならないのかもしれない。


だってもう、体に力が入んないんだ。