それぞれの携帯電話に、色違いのイルカが揺れていた。


「補欠のとこ以外、考えてねえよ。あたし」


「そういうセリフくらい、可愛く言えないの?」


「うっさいなあ……いいじゃん、気にすんなよ」


「まあ……ちょっと変わってる嫁さんもいいかな」


「そうかあ。じゃあ、遠慮なく嫁がせてもらう」


それは、まだもう少し先の話になるんだろうけど。


補欠のとこに、お嫁に行くんだ、あたし。


夢、なんだ。


ずっと、一生、補欠の隣にいること。


叶うかなあ。


夢。


「叶うといいな」


呟くあたしに、補欠は言った。


「いいな、じゃなくて、叶えるんだよ」


人だかりを抜け出した片隅で、あたしたちは確かめ合うように口づけを交わした。


こっそり。


だれにも気づかれないように、こっそり、秘密の。


補欠の肩越しには、それはそれは綺麗なマリンブルー色の宇宙が広がっていて。


今なら、どんな夢だって叶えられる、そんな気がしたの。











「翠! 翠いい!」


悲鳴のような金切り声が耳を劈いて、ハッとした。


誰……?


ゆっくり目を開けると、あたしは母の腕に抱かれていた。


「翠っ!」


お母さん、そう言いたいのに、声が出せない。


もう、起き上がる気力も、そんな力もない。


ぐにゃりと歪んでかすむ先に、ひどい顔の母が居て、あたしを毛布で包み込みながら抱きかかえていた。


ああ、だるいったらない。


しんどくてしんどくて、あたしは目を閉じた。