「なっ……だって、一生だぞ! お前、その意味ちゃんと分かってんの?」


「分かってるよ」


そう言って、補欠はあたしの手を静かにほどいた。


「まあ、あれだ。今すぐってのは無理だけど。大学卒業して公務員になって、それで、それなりに飯食って行けるくらい稼げるようになったらだけど」


ドキドキ、ドキドキした。


「来る?」


「は? どこに?」


首を傾げたあたしを見て、補欠は可笑しそうに笑った。


「まあ、貴司も洋子もあの通りズレてる人間だけど。それでも良かったら、来る?」


一生、ってそういう意味じゃないのか? 、そう言った直後、補欠は真面目な顔つきになった。


「そういう意味……って……」


「そういう意味だろ? 違う?」


「いやあ……」


「じゃあ、こっちも聞くけど」


と、突然、補欠があたしの腕を掴んだ。


「苗字変える覚悟、あんの?」


「……え」


「夏井翠になる覚悟あんのかって聞いてんの」


一体、何だってんだい。


まるで、雷に打たれたようなでっかい衝撃だった。


「ある」


ぽそ、と答えると、補欠は青空に浮かぶふわふわの雲のようにやわらかな表情を浮かべて、


「そか。じゃ、おいで」


と、静かにあたしの顎を持ち上げた。


「行く」


「まだ先の話だけどな。おれのとこで良かったらおいで」