「いつもいつも困らせてごめんな。本当に申し訳ない。すまん」


「え、なんだよ、急に。気持ちわりいなあ……」


「うっせえ! 黙って聞きやがれ」


「お……おす」


恥ずかしくて、照れくさくて、たまらなかった。


だけど、ここで跳ね返ってたら、また同じ事の繰り返しだと思った。


素直になる事は、照れくさい。


だけど。


「いつも、困らせてばっかでごめんね、補欠。けど、けど……愛想尽かさないでくれ!」


少しでも素直になれるように、頑張るから。


離れたりしないで。


「ほんとな。とんでもない女、彼女にしちゃったかも。おれ」


「す……すまん。でも」


言いかけた言葉を遮って、補欠があたしの手を握り返した。


「これからも普通に困らせられるんだろうな。参ったなあ。でも、覚悟してるからさ」


自慢げに、ニ、と左の口角を上げて補欠が笑った。


髪の毛、また少し伸びたな、補欠。


それで、また少し、大人の男の顔つきになったような気がする。


「だから、大丈夫だよ」


「じゃあ! じゃあ……困らせてやる。これでもかってくらい、困らせてやるから」


「へえ、期待してる」


前は「ええー」とか「勘弁してよ」とか、本当の困った顔をするのが補欠なのに。


今は余裕の笑顔で構えたりなんかしてさ。


悔しくなった。


「ひどいんだぞ、あたしが本気出したら」


「へえ」


「補欠、ウツになるかもしんないよ。そんくらい困らせてやるんだから」


ふうん、と補欠が頷く。


「オッケー。余裕」


「アホか! 余裕こいてられんのも今のうちだぞ。ひどいんだから……」