この手が長く長く伸びて、ここから届かないかな。


補欠に。


うん、でもなく、ううん、でもない、微妙なニュアンスの声が返ってきた。


「ああ」


ライトアップされた水槽の中は本当に幻想的で、吸い込まれそうになる。


「あたしはもう、見つけたよ。補欠のこと」


「……え」


「もう、けっこう前から見つけてるんだけどね」


補欠はイルカばかり見つめて、あたしに気づく気配もないけどね。


「あたしのとこから、丸見えだからさ。補欠」


「は? 何、どういうこと? どこに――」


突然、補欠の声がフツリと途切れた。


優しい視線が上から下へ、ゆっくり降りてくる。


目の前を通過した1頭のイルカを、もう1頭のイルカがすぐに追いかけて行った。


「……あ」


あたしを見つけた彼の目が、一瞬、大きく見開かれた。


次の瞬間、くすぐったそうに笑って小さく右手を上げた補欠の声が、静かに耳を通過した。


「なんだ、こんな近くに居たのか。良かった、居てくれて。あー、まじ助かった」


やっと見つけた、そう言って補欠はにっこり笑っていた。


「さっきはごめんな、翠。おれ、話し込んじゃって。悪かったな。でも、急に居なくなるのはやめてよ」


「……うん」


しばらく沈黙のまま、あたしと補欠はガラス越しに見つめ合った。


スイスイ、イルカが泳いで行く。


青く白く、輝く大海原の切り抜きの中を。


電話越しで、補欠が呟く。


「宇宙、か……確かに。一理あるかもな」


「だろ!」


あたしは補欠から目を反らして、水槽を見上げた。


「宇宙にもいろいろあんだよ。そもそも、宇宙は広いもんだって誰が言い出したのさ。小さい宇宙だってあんだよ」


「哲学だなあ」


補欠がクスクス笑った。


あたし、広い宇宙なんていらない。


小さな宇宙で十分。