そして、携帯を開くと目を大きくして、呆れたように笑った。


「……はい」


不思議な気持ちになった。


水槽を隔てた正面に補欠が居る。


あたしの存在に気づかずに、あたしと話している補欠がそこにいる事に不思議を覚えた。


「翠? お前、今どこに居るの? わざと電源切ってただろ」


向こうで、補欠は無表情で水槽を見上げていた。


「……どこにいると思う?」


逆に聞き返すと、水槽の向こう側に居る補欠は少しムッとして答えた。


「知らねえよ。勝手に居なくなって、携帯の電源は切るし。さっきからめちゃくちゃ探してんのに、みつかりゃしねえ」


そっか、探してくれたのか。


あたしはとうとう堪えきれなくなって、小さく笑った。


バカじゃん。


ほら、こっちだよ。


ちゃんと見てよ。


水槽の中に、あたしは居ないよ。


でも、補欠の正面にいるんだよ。


「さて、どこだと思うかね、補欠さん」


「あ、てめ、何笑ってんだよ。おれは必死こいて探してんのに」


「すまん。あたしさあ、今、宇宙の中に居るんだけど」


「はああ? 宇宙って……そりゃ、まあ。人間だから宇宙のどこかに居るんだろうけど」


「いや、違くて。そういう難しい意味じゃなくてさ」


アホじゃん。


なんで、分かんないのさ。


ほら、ちゃんと見てよ。


うちら、もう、ちゃんと会えてるのにさ。


そろそろ、気づいてよ。


「ねえねえ、補欠」


あたしは携帯を耳に押し当てながら、ゆっくり、水槽に手を伸ばした。