楽しそうに笑う親子連れ、ロマンチックな光景にうっとりして寄り添う恋人たち。


こんな幸せが溢れている空間に居たら、孤独が膨らんで粉々に割れて、あたしの体は消えてしまうかもしれないと思った。


とにかく、この人だかりを抜け出したくて回れ右をした、その時だった。


「……あ」


頭のてっぺんから足のつま先に、優しくて静かな電流が流れた。


ストライプ柄のシャツに、ジーンズ。


少し伸びた、短い髪の毛。


優しい瞳を持つ彼を、正面に見つけた。


円柱型の巨大な水槽の向こう側真っ正面で、静かなオーラを強く放ちながら、じっと水槽を見上げていたのは補欠だった。


ふと、2年前の春の日、夕方のグラウンドでの事を思い出した。


あの日、誰も居ないグラウンドの真ん中に立ち、茜色の空を見上げていたのも彼だった。


あの日、あたしたちは無限に広い宇宙の片隅で出逢った。


あの時も、彼は今のように優しい光を放っていた。


青く輝く水槽の真っ正面に居る補欠の瞳を、あたしはひたすら見つめ続けた。


いつも、補欠は優しい目をしている。


その目が、時計回りにぐるぐる回って泳ぐイルカを追いかける。


あたしは携帯電話を開き電源を入れ、また向こうに居る補欠を見つめた。


補欠はあたしが正面にいることに、気づく気配もない。


ドキドキした。


この人だかりの中で補欠を見つけた己の能力にドキドキした。


緊張感しながら、コールした。


ガラス越しの補欠はハッとした顔をして、慌てた様子でジーンズのポケットに左手を突っ込んだ。