あたしはイルカから目を離せなかった。


魅了されて、声が出なかった。


なんてきれいな目をしてるんだろう。


黒く澄んだ真っ直ぐな目は、黒真珠のように美しかった。


「なにさ、あんた」


そこまで真っ直ぐ見つめられると、さすがに後ろめたくなってくる。


「意地張るなって言いたいんだろ?」


そもそも、こんなつまらない意地を張ることになったきっかけは、あのイルカのストラップで。


些細な事でここまでバカみたいな行動をとった自分が恥ずかしくてたまらなくなった。


ハッとさせるほどの強い魔力をイルカの目は持っていた。


「あたしだって、分かってんだよ」


どうして、いつもこうなんだろう。


本当にこんな事の繰り返しばかりだと、本当にいつか愛想を尽かされるに決まってる。


イルカと目が合った。


「だから、分かってるって」


だから、そんなきれいな目で見るなってば。


すると、イルカは口を開けてパクパクさせたあと、体をひねってスーッと浮上して行った。


「ナオ!」


その時、少年のお父さんが戻って来て、


「今、イルカいなかったか?」


「父ちゃん! うん、うん! イルカだよ!」


「そうかあ! やったなあ!」


と少年を持ち上げて、ひょいと肩車をした。


少年が叫んだ。


「イルカー!」


やけに騒がしい周りにハッとした。