「響也! 響也じゃんか!」


「え……おおー! 祐太(ゆうた)」


あたしの知らない人だった。


補欠とその友人は久しぶりの再会で会話に花を咲かせ、周りが見えていないくらいに盛り上がって、


「ねえ、補欠。ねえってば!」


声をかけても、


「ああ、ちょっと待って」


軽くあしらわれてしまう始末だった。


「バカ、アホ、とんちんかん!」


楽しそうに盛り上がっている二人から離れて、あたしはひとりで館内を見て回った。


頭に来た。


補欠が追いかけて来る気配なんてこれっぽっちもなくて、


「バカヤローめが! フン」


やけくそになったあたしはついに携帯電話の電源をオフにして歩きまわった。


補欠のバカ。


携帯に繋がらなくて、焦ってしまえ。


ほんの悪戯程度の気持ちだった。


人ごみに紛れて歩きまわるうちに、


「ありゃまあ……ここ、さっきも来たなあ……」


あたしは完全に迷子になっていた。


それでもひたすら歩き続けて辿り着いたのは、暗く沈んだ巨大な水槽の前だった。


何だ、ここ。


急に静かになったそこには迷子のあたしと、一組の親子だけしかいなかった。


「なにここ……何も居ないじゃん……」


小魚一匹泳いでいない暗い水槽を見上げて呟いた時、


「なんだよー!」


隣に居た男の子が不機嫌で大きな声を荒げた。