「頼むからやめて。な、恥ずかしいんだって」


「はあー? 何がじゃ」


ムッとして睨むと、補欠は周りをしきりに気にしながら、口調を速めた。


「その“補欠”っての。叫ぶのやめろよ」


「何で! 補欠は補欠じゃん。今更恥ずかしがんなって。てか、そんな事よりさあ、アレ」


店員さんが持っているストラップを指さすと、補欠は疲れた顔で肩をすくめた。


「これ、超かわいくない? あたし、これ欲しいんだけど」


「はあ。けど、まだ館内見て回ってもいないのにもう土産買うのかよ。あとにしようぜ」


「違うって! これ、オソロでつけたいんだけど。買おうぜ、これ」


「お揃いー? えー……恥ずかしいだろ」


渋る補欠に、店員さんがすかさず話しかける。


「これ、カップルさんに大人気なんですよ。補欠さん」


弾かれたように、補欠が顔を上げる。


「……ええっ!」


「可愛い彼女さんとお揃いでどうですか?」


「いや、てか……補欠じゃないっす!」


それだけ言いかえすと、


「行くぞ、翠」


あたしの手を引っ張って、逃げるようにショップを飛び出した。


「あっ! ストラップ、欲しかったのにー! 補欠のアホー!」


「……つうか、赤の他人にまで“補欠”って言われたんだけど」


最悪、終わってる……とブツブツと念仏を唱えるように小言を漏らす補欠を睨みながら、あたしはトボトボ歩いた。


何さ。


ストラップ、お揃いでつけるくらいいいじゃん。


ペンギンもアザラシも、北極クマも可愛かった。


でも、館内を見て回りながら、あたしはひたすら不満だった。


それが、補欠にも伝染したのかもしれない。


あたしたちはずっと無言で歩き続けた。


熱帯魚やクラゲの水槽が連なる薄暗い空間に入った時、補欠の中学時代の友人と遭遇した。