それを見つけた瞬間、飛び付かずにはいられなかった。


ぞろぞろと流れる人波に紛れ込むように他人のふりをする補欠が、明らかにわざとあたしから目を反らす。


「ちくしょうめ。あいつ……他人のふりしやがって!」


コラアー! 、と駆け出そうとしたあたしに、店員さんが話しかけて来た。


「これね、うちの一番人気の携帯ストラップなんですよ」


「……え?」


やわらかい声に振り向くと、若くて和風美人の店員さんがそれをひとつ手に取って差し出して来た。


「お土産よりも、カップルの方たちが買って行かれますね」


「そうなの?」


クリアピンクとクリアブルーのイルカのストラップ。


うん、と店員さんが頷いた。


「知ってます? イルカってちょっと変わったコミュニケーションの取り方をするんです」


「ほう、どんな?」


あたしが興味を示すと、店員さんはストラップを見つめながら教えてくれた。


「ほら、人間てメールとか電話とか、機械的な方法で相手と繋がっている事を確認するでしょう?」


「うん」


「イルカはね、特殊な超音波のような鳴き声でコミュニケーションをとるみたいよ。ピュー、ピュー、って。その音は海底でも何キロ先の相手にも届くんだって」


だからね、と店員さんは続けた。


「どんなに遠くに居てもあなたと繋がっているんだ、って。気持ちが繋がっているんだよ、って。お揃いでつける恋人が多いみたい」


「……なにそれ、超アツいじゃん!」


あたしは、その話に食いついた。


これだ! 、と思った。


「補欠ー! ほーけーつー!」


人ごみに紛れる補欠にオーバージェスチャーをして、ジャンプしながら叫んだ。


「無視すんなー! 補欠ー!」


通って行く人たちがクスクス笑いながら、過ぎて行った。


すると、補欠は顔を真っ赤にして一目散に猛ダッシュであたしの所に走って来た。