シャラリと揺れるストラップ。


去年の夏まではマスコットだの何だのとジャラジャラ絡まってうるさいくらい賑やかな携帯電話だった。


でも、今は至ってシンプルになった。


クリアピンク色のイルカのストラップ。


これさえあれば、他は何もいらない。


ジャラジャラ絡まるストラップは、今ではもう逆に邪魔に思えてしまうほど。


イルカのストラップにそっと触れると、自然に口元が緩んだ。


これは、あたしの大切なお宝だ。


補欠に電話を掛けようとしてボタンを押した時、異変に気づいた。


「……う」


突然、一切の前触れもなく、背中にゾワリとした痺れのような感触が走った。


グラリと歪む、雪景色。


唐突に、尋常ではない吐き気と眩暈と、


「や……いってええ……」


猛烈な鈍痛が左側頭部に刺さった。


手がガクガク震える。


ボス……と僅かに聞こえたその音は、携帯電話が新雪の中に沈んだ音だった。


痛い……痛い……、怖い。


天と地が上になり下になり、ぐるぐるぐるぐる回転する。


最初はゆっくりだったのに、一気に速度が上がった。


「いいいっ……ぎゃあああっ」


あたしはバッグを投げ捨てて、無我夢中で頭を抱えた。


痛くて、目が飛び出るんじゃないかと思った。


この氷点下の中だってのに、どろりとした不快な汗が体中の毛穴から噴き出る。


体が引きちぎられるんじゃないか。


「や、やあっ……助けてっ!」


あたしはとっさに、後ろに下がって尻餅をついた。


カラフルなビーズみたいな光が、真っ白な空から、発光しながら飛んでくる。


来るな!


来るな!


その光を払いのけようとして、両手を振り回したいのに、できない。


「来るなあっ!」


あたしは、重い頭を抱えながら雪の中にうずくまった。


はっきりとした意識の中で激痛にもがきながら、あたしは確かに感じていた。