「気を付けろよ、翠。それでなくても、あんたは爆弾抱えてんだから」


「へいへい、おおきにまいどありー」


「……大丈夫かねえ。今日は大雪になるみたいだし。とにかく、響ちゃんのいうことちゃんと聞いて」


こんこんと話し始めた母の肩をバシバシ叩いて、はいはい、と返事した。


「何もないから。大丈夫だからさあ。心配すんなよー」


「……ほんとに、大丈夫かねえ」


「大丈夫! じゃあな、これにて、おさらば!」


これにて、おさらば。


なんて、言うんじゃなかった。


じゃあな、明日には戻るぜよ、にしておけば良かった。


何で、おさらばなんかしてしまったんだろう。


心配せんでも、明日には会えるさ、そう言えば良かった。


気休めにしかならないとしても。


「……あ……れ……」


不思議な違和感を覚えたのは、ドアノブを回した時だった。


手に、わずかな痺れがあった。


でも、真冬の寒さによるかじかみだろうくらいにしか思わず、そのまま勢いよくドアを開けて外に飛び出した。


「ひょーっ!」


外は極寒で、氷点下があたしの皮膚に突き刺さる。


ぼたり、ぼたり、と大きな花びらのような牡丹雪が町を純白色に染めていた。


「すげえ雪だな、おい」


呟いた時、背後で母が叫んだ。


「翠! 駅まで車で送ってやろうか?」


あたしは振り向き、降りしきる牡丹雪の隙間から母を見つけて、首を振った。


「ノープロブレム!」


不思議なものだ。


いつもなら、迷わず送ってもらうはずなのに、今日はなんだか歩きたい気分だった。


この、牡丹雪の中を。


それこそが、全ての始まりだったのかもしれない。


始まりで、そして、終わりを告げる何かだったのかもしれない。