やめなよ、と結衣が慌てふためいて駆け寄って来た。


「まじで危ないって!」


結衣はあたしのロンTの裾をむんずと掴んだ。


「落ちたら怪我だぞ! 翠ってば!」


心配する結衣にお構いなしに、あたしは鉄格子に両手両足を掛けてよじ登り始めた。


「余裕! こんなの朝飯前にもならん」


あたしは、運動神経がいい方だと思う。


陸上部だった母と、野球部エースだった父。


ふたりの遺伝子を持ってこの世に送り出された者なのだ。


てっぺんに辿り着いて見下ろすと、結衣が真っ青になって見ていた。


「どうした? ほら、結衣も来い」


ちょいちょい、と左手で手招きをすると、結衣は青い顔をぶんぶん振った。


「ムリムリ! てか、こんな無謀なことする女は、翠くらいだって!」


「なにーっ! 赤毛のアンに言われたくねーわい」


昨日、黒いショートヘアーを赤く染めたばかりの結衣を、キッと睨んだ。


「うっさいわ!」


すると、結衣も負けじとあたしを睨み返してきた。


「金髪のフリョーに言われたくないわい!」


「なにをーっ! 赤毛のアンめ!」


そういうあたしも、結衣と同じだ。