「恋ってさ、すれ違ったら終わりだよ」


明里の声には妙に納得させる何かがあった。


「一度すれ違った基軸をさ修正すんのって、けっこうしんどいし、難しいよ」


分かっている。


明里が悩む姿を見て来たから、分かる。


「うん、分かった」


「じゃあ、明日な。詳しい事決まったらメール入れとく」


「See you tomorrow!」


トゥモロー。


明日。


この時のあたしは、明日は当たり前に来るものだと、それが当然なんだと思っていた。













リビングに、テレビから流れる気象予報士の声が静かに行き渡る。


「気象衛星から見た、雲の動きです」


バッグに財布と歯ブラシセットと携帯電話を放り込んで、あたしは真っ白なツイードのトレンチコートを羽織った。


「今日はこれから次第に雪が強まり、お昼前から大雪になるでしょう」


「大雪ー?」


テレビに怪訝な視線を送るあたしに、


「あれー? 泊まりなのに荷物それだけか?」


洗い物を終えた母が声を掛けながら、キッチンを出て来た。


「うん。歯ブラシがありゃ、どうにかなる」


「えー……そうかあ? 洋子さんに迷惑かけるんじゃないぞ。それが心配だよ、母は」


一応、と母が受話器を取り、夏井家に電話を掛け始めた。


いつからか、母は極度に心配性になってしまったらしい。


「あ、洋子さん? 冴子です、おはようございます」


時計を見ると、8時半だった。