いる、いない、をしばらく言い合ったあと、あたしたちは同時にブハーッと吹いて笑った。


先に話し出したのは、明里だった。


「今日、これから夏井と会うんだろ?」


「うん、これから映画観て、魅惑の一夜を共に過ごすのだ!」


ミワクウー? 、と明里が小馬鹿にして笑った。


「魅惑でもなんでもいいけどさ……とにかく、夏井に言いなよ」


「へ?」


「ほら、卒業したら東京に行く事。まだ言ってないんだろ?」


「うん、分かってる」


分かっている。


このままじゃいけないこと。


「夏井なら、ちゃんと受け止めてくれんだろ。あいつ、普段ぼけっとしてるけどさ、器のでっかい男じゃんか」


翠の事になるとなおさらそうじゃん、と明里が笑う。


そうなんだと思う。


あたしが東京に行って治療をして帰って来るのを、補欠は待っていてくれるんじゃないかと思う。


「夏井、N大の推薦通ったんだろ?」


「うん」


一週間前、補欠の進学が決まった。


補欠の頭なら県外の全国に名が通った有名な大学に余裕で入れるのに、彼は県内の大学を選んだ。


翠と一緒に未来を歩いていく、そう言って。


あたしは東京行きの事もあって予備校に通いながら来年、県内の専門学校を受験することにした。


でも、補欠には、入院で遅れた分の復習をするからと言ってある。


補欠ならもっといい大学ねらえんのに、と詰め寄ったあたしに、補欠は静かに微笑んだ。


県外でも県内でも教員免許はとれるよ、だったら翠の近くで夢を叶える道を選ぶ。


しかし、県内と言ってもN大は県一のレベルの高さで、あたしたちが住む町から電車で一時間以上離れた場所にある。


「だからさ、早く打ち明けなよね、翠。夏井とすれ違っちゃう前にさ」


明里の声のトーンが一段沈んだ。


「近くに居ても、あたしみたいにすれ違っちゃだめだよ、翠」


「……え?」