「結衣!」


結衣に明里を預けて、あたしはその男に飛びかかった。


勿論、その勢いでカツラはぶっ飛び、小さなハゲは丸出しになった。


でも、恥ずかしくも何ともなかった。


明里が抱えている羞恥に比べたら、こんなハゲなんてミソっカスだと思った。


「てめえ! 男のくせに、女から金巻き上げてんじゃねーよ!」


「なんだよ、君には迷惑かけてないだろ? おれと明里の問題だよ」


どんな問題だよ、アホか。


「明里の問題は、あたしと結衣の問題でもあるんじゃ! たわけが!」


「……何、この子。頭、やばいんじゃない?」


ドギマギしながらそそくさと逃げようとするその態度が、さらにあたしを逆撫でした。


「待てー! ぶっ飛ばしてやる!」


あたしは雪の中に鞄を投げ捨てて、男に飛び蹴りをかました。


「いってえー!」


男が雪の中に倒れ込んだ。


無様だった。


「明里に謝れ! もう二度と金借りたりしないって、今ここで誓え!」


茫然とする男に馬乗りになって、あたしはポカスカ殴った。


「あたしの親友に謝れ! バカ男!」


勝手に涙が出た。


ただとにかく無性に腹が立って、悔しくて。


変だとは思っていたのだ。


ちょうど夏休みが明けた頃から、明里の付き合いが悪くなった。


放課後はコンビニのバイト。


休日はひたすらファミレスのバイト。


あたしと結衣が遊びに誘っても、ひたすら働きづめで。


何でそんなに金が必要なんだと聞いても、ただ苦笑いして「別に」「なんとなく」「社会勉強」が明里の返事だった。