穏やかな冬の暖かい日に淡くたなびく霧の中、あたしはただ漠然とこんな事を考えているのだ。


父の死は、突然の不慮の事故ではなかったんじゃないだろうか。


あれは、父が生まれ持って定められていた寿命だったんじゃないだろうか、と。


もし、あの日、事故に合わなかったとしても何かしら別のきっかけで、父はこの世を去る運命だった。


三十歳。


それが、父の寿命だったんじゃないのかな、って。


真っ白な空をぼんやりと見上げながら、そんな事を思う。


そんな、漠然とした夢だった。










朝、目を覚まして窓を開けると、


「うわ……すっげえなあ」


ここ数日の大寒波で野も山も白一色の眩しい銀世界になっていた。


二月も半ばにさしかかり、卒業まであと一ヶ月と半分。


卒業したらすぐ東京へ行く事は決まっているのに、あたしはまだその事を補欠に打ち明けられないでいた。


同時に、再発した事も。


今まで何度も再発している事を補欠は知っているし、別に隠す必要なんてないのに。


どうしても、打ち明ける事ができなかった。


今、ようやく手にする事が出来た幸せを失いたくなかったから。


あたしは、幸せに満たされていた。



毎日のように補欠の側に居られる事が、ふたりの時間が増えた事が、うれしくて。


それを壊すような事をしたくなかった。


あと一週間、あと三日……あと、もう少し。


そうやってごまかして、ギリギリまで隠そうとしていた。


だって、ほら。


付き合ってもずっと、あたしは野球の次で。


野球というものが彼の中にある限り、一番にはなれなくて。


一緒に居られる時間は限られていたから。


彼が部を引退して急に一緒の時間が増えて。


楽しくて嬉しくて、とにかく幸せで。