蛍は成虫になると、水を飲む以外に餌はほとんど食べずに、ひたすら光り続ける。


「好きなやつに猛アタックしてんだよな。そうやって、おケツ光らせてさ」


まるで、返事でもするように、ぽわあ……と蛍は光った。


「そうか! やっぱし、そうなのか」


黄緑の光に、思わずうっとりしてしまう。


「大変だよな、お前らも」


確か、蛍の寿命は一週間から二週間くらいだった気がする。


その間に命がけの恋をして、蛍は死んでいく。


なんて健気で素敵な一生だ! 、とあの頃のあたしは小学生のくせに胸をいっぱいにしていた。


命がけの恋どころか、恋の「こ」もまだ知らないくそガキだったくせに。


病気を患った今だから、あの頃の自分に教えてやりたい。


翠、お前はなんて浅はかなんだ、なんてませガキなんだ、と。


だけど、逆に。


病気を患った今だから、蛍の気持ちがよーく分かる気がする。


この命を削ろうとも、この身を粉にしようとも、譲れない気持ちと譲れない恋があたしにはある。


ぽう、と蛍が優しい光を膨らませた。


補欠みたいだと思った。


ドキドキした。


「……補欠」


そっか。


さっきは何で気付かなかったんだろう。


補欠が放つ、優しくてやわらかくて物静かな、あの光のようなオーラ。


まるで、この蛍みたいだ。


だから、みんな、補欠に寄ってくんだ。


惹きつけられるんだ。


入学式の前日、誰も居ないグラウンドで見かけた時から、ずーっと考えていた。


彼が放つ、不思議な優しい光の正体を。


補欠は、蛍みたいだ。


だから、あの時から、あたしは補欠に惹きつけられて、一瞬で恋に落ちてしまったのかもしれない。


いつだったか、あたしが泣いた時、補欠が言ってくれた。


おれ、笑ってる翠が好きなんだ。


太陽みたいだから。


「ねえ。お前に、お願いがあるんだけど」


ぽう、と光を放った蛍に話しかけた。