「何にも分かってやれてなくて」


いいんだよ、補欠。


何も分かってくれなくていいから。


そんなこと、望んでないから。


だから、あたしなんかの事で泣くな。


「補欠のくせになくな」


わざと明るく笑い飛ばしたのは、あたしも泣きそうになったからだ。


「笑うな、翠」


「え! なんでさ」


「なんで……辛い時も無理して笑うんだよ」


声を詰まらせながらそう言って、補欠はあたしの手を握る力を強めた。


どんなに力を強めても、補欠の手は優しい温度で。


だから、我慢できなくなってしまった。


ゴクリと唾を飲んだ瞬間にカチッとスイッチが入って、涙が一気にあふれた。


「翠は……」


補欠が絞り出した声は切なさがにじみ出ていて、涙を誘う。


「そうやって笑ってばっかだから、いつ本当につらいのか分かんねえよ」


「あたし、別に辛くないし」


本当は、気が狂いそうなほどつらいけど。


辛くて、しんどくて、逃げ出したいけど。


「だから、泣く必要もないしね」


言ったそばから泣いてちゃ、説得力のかけらもないけど。


ただ、確実に言えるのは。


「補欠が居れば、それで……いい」


他は、何も望まない。


補欠が居てくれるなら、あたし、笑う事ができる。


辛い辛いって、泣いてばかりいたら、病気はあたしから離れていくの?


違うと思う。


悲観的になっていたって、治るわけじゃない。


なら、笑っていた方がいいに決まってる。


分かっているのに、どうしても、涙が止まらなかった。


ボロボロ涙をこぼしながら、あたしは必死に笑った。