あたしが笑ってさえいれば、補欠も笑ってくれるんだな。


それなら、あたし、笑い続ける。


補欠が笑ってくれるなら、どんなことだってする。


母と健吾があたしたちに気を使って売店に飲み物を買いに病室を出て行った直後、


「ごめんな、補欠」


あたしはベッドに横になったまま、謝った。


「びっくりしたろ? すまんなあ、でも、大丈夫だから」


補欠は広い肩をすくめて、こじんまりと溜息を落とした。


「びっくりしたとか、そういう問題じゃねえよ。なんで隠してた?」


ほんとだな。


そんな問題じゃねえよな。


でも、隠したくて隠してたわけじゃない。


ただ、心配だけはかけたくなくて。


野球の邪魔だけは、何が何でもしたくなかったから。


「だって。エースか万年補欠か。それがかかってる時期に言えるバカがどこに居るってのよ」


言えるわけ……ないじゃん。


こうみえても、あたしなりに、応援してたんだから。


外はまだ雨が降り続いていた。


黙り込んだ補欠に、


「Hey、響也」


と声を掛けると、補欠が弾かれたように顔を上げた。


「えっ」


「ねえねえねえ! そんなことよりさあ、あたしの鞄開けてみな」


「鞄か?」


補欠は持って来てくれたあたしの通学鞄を太ももの上に乗せて、ジッパーを開いた。


中を確認した補欠が「あっ」と声を漏らしてフリーズした。


その姿が可笑しくて、愛しささえ感じて、胸がきゅううんと可愛い音を立てた。


「すごいだろ! これさあ、103個もあるんだぞ」


あたしは鞄に手を突っ込み、ひとつだけとってそれを天井に掲げて見せた。