近くにいなくても、隣にいなくても、見つめることができる。


見つめて、祈る事くらいしかできないんだろうけど。


毎日、見つめることはできる。


学校も、グラウンドも。


そう思うと、急に心が軽くなって、楽になった。


窓を全開にしたままベッドに戻り、病衣のダサっぷりに文句をつけていると、


「翠!」


入り口に、ギョッとする健吾と、


「……」


口をまんまるに開けた補欠が案山子のように突っ立っていた。


……補欠。


胸がぎゅうっとわしづかみされる。


今、その胸に飛び込んで行きたくて、切なくてたまらなかった。


いつも、何かと突っかかってくる健吾が声を震わせて涙ぐんでいた。


「お前、すっげえ元気じゃんかよ!」


心配したんだぞ、その言葉を口にした瞬間に、健吾は泣き声を出した。


「健吾……」


まさか、健吾が泣くなんてこれっぽっちも思っていなかったから、直視する事ができなかった。


だから、わざと、いつもより明るく元気につとめた。


「Bonjour! 補欠、健吾! てか、乙女の園に入る時はノックすんのが常識だろ! バカヤロー」


腕をぶんぶん振ると、点滴に管も一緒にブーラブラ揺れた。


茫然とする補欠に、


「ねえねえ、補欠! このネグリジェどう? 新作なんだけど」


と病衣をつかんで、笑顔を向けた。


「は? ネグ……新作?」


補欠も健吾も、ふたりに心配かけたくなくて、必死に明るくふるまった。


「てか、こんなだっさいネグリジェ、この美しいあたしには似合わないと思わない?」


ねえ、補欠、そう言って笑うと、補欠は小さくクハハと表情を緩めた。


あ……補欠が、笑った。


嬉しくて、あたしもつられて吹き出した。


そうか。


こんなに簡単な事だったんだ。