部活は?


野球は?


何で……補欠……。


「部活、休んだみたいだぞ。今、健吾くんと一緒に向かってるってさ」


何で?


「健吾も……?」


…………何でだよ。


南高きっての野球バカふたりが、大事な野球をほっぽり出して。


何で、あたしなんかのとこに来るんだよ。


大切な地区大会が目前に迫ってて、そんな暇ないくせに。


「……ばかあ」


あたしのこと、心配してる場合じゃないだろ。


あたしのことなんか、どうでもいいのに。


部活休んでまで来る必要ないのに。


練習が終わってからでもいいのに。


来る日も来る日も明け暮れて来た野球を休ませてしまった事が悔しくて、情けなくて、泣けて来る。


涙ぐむあたしの手に、


「とりあえず、その化粧落とせ」


母が携帯用のクレンジングシートを握らせた。


「入院患者が、クレオパトラにたいな顔してたら新喜劇だろ」


「なにー! だって、補欠が来んのに。スッピンなんか嫌じゃ」


クレンジングシートを握って左手を振り上げると、点滴の管も一緒に揺れた。


「ほう。娘よ、さてはおぬし、スッピンに自信がないんだな?」


右の口角を上げて、母が逆撫でしてくる。


さりげなく、あたしの負けず嫌いに触れるのが、母の特技だ。


「あん?」


「スッピン見られて振られんのが怖いか。はっはーん、自信がないか。それか、補欠という男は彼女の素顔も受け止められんような、チンケな男か」


黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって。


「何を言うか!」


いくら大好きな母とは言え、補欠を悪く言うやつは、このあたしが断じて許さん。


ビッ、とセロファンを剥いで、あたしはシートを一枚引っ張り出した。


「補欠は器のでえーっかい男じゃ!」


売り言葉に、買い言葉。


それに似てる。


「補欠はな、あたしのことが大好きなんじゃ!」


「ほう」