そっか、と答えたあたしに、それ以上の事を母は言ってこなかった。


水を打ったように静まり返った病室に、廊下から足音と小さな話し声が迷い込んで来る。


長い沈黙を破ったのは、あたしだった。


「心配しなくても、手術するよ、あたし」


もう、こうなってしまったからには、その選択肢しか残っていない事くらい、あたしにも分かる。


結衣も明里も、健吾も。


誰よりも、補欠が。


おそらく、知ったのだ。


もう、何をどうしたって隠し通せるような問題じゃなくなってしまったんだと思う。


手術となると、長期の入院は必須で。


ただの貧血でしたー! 、なんてごまかしが通用するはずもない。


その時、母の携帯電話に着信があった。


誰だ、とディスプレイを見た母の顔色は複雑だった。


ヤバイ、と、ホッ、が混同した表情だった。


うまい具合に混ざり合っていた。


「誰?」


聞くと、母は息をひとつ飲んでから言った。


「響ちゃん」


あたしはとっさに目を反らして、母に背を向けた。


補欠が母に連絡してきたということは、おそらく、そういうことなのだろう。


何かしらを、知ってしまったに違いない。


「えっ……そう。分かった。じゃあ」


電話を切った母が、あたしの背中をそっとさすった。


「来るって、響ちゃん」


来る……?


「えっ!」


ばっと振り向いて体を起こすと、左腕に透明な管が刺さっていた。


「あっ、コラ! 急に起きるな!」


母が慌てて、ブラブラ揺れる管を掴んだ。


「点滴してんだから寝てろ! 外れたらどうすんだい」


寝てろって、言われても……。


そんなこと言われても……。


「補欠、来んの? ここに? 来んのか?」


「興奮すんなって」


今にもベッドから飛び出しそうなあたしをなだめるように抑えつけて、母は「来るよ」と呟いた。


業火に焼かれたように、背中がカッと熱くなった。


「何で! だって……」