夕陽の色が本当にきれいで、何かいい事がありそうな気がして、あたしは無意識のうちに補欠のワイシャツの裾を掴んでいた。


明日、補欠が背番号1をもらえるといいな。


エースになれたら、いいな。


「おい、こら」


何そんな顔してんだよ、と補欠があたしの額をコツンと弾いた。


「……へい?」


「そんな心配そうな顔すんなって」


あたし、そんな顔してた?


でも、そうだったのかもしれない。


たぶん、心配そうな顔をしたんだと思う。


もし、明日、補欠がエースになれなかったら……そう思ったのも事実だったから。


「別に心配なんか……」


言いかけたあたしの声は、補欠の力強い声にかき消されてしまった。


ドキドキした。


補欠の目が、真剣だったから。


「あのな、翠」


その目に吸い込まれたら、どんなに幸せなんだろう。


優しくて、やわらかくて、だけど、強いその瞳の奥に。


「おれ、中途半端な気持ちで野球にのめり込んで来たわけじゃねえよ」


補欠が、そっとあたしに手をとった。


「ただ野球が好きだから。そんな半端な気持ちで、翠に寂しい思いさせて来たわけじゃねえから」


夕陽が西に傾きはじめていた。


「信じて、待っててよ」


補欠の瞳が、細かく輝きを放つ。


まるで、泣いているような潤んだ瞳だった。


「明日、背番号1持って、真っ先に翠のとこに行くから。家で待ってろ」


うん、と頷きながら、あたしは泣きそうなのを必死に我慢して、聞いた。


「もし、もらえなかったら? エースになれなかったら?」