「まあまあ、翠さん」


と肩を叩いて来たのは、どこか自信に満ちた笑顔の勇気だった。


「心配しなくても、エースは夏井先輩ですよ」


大丈夫っすよ、そう言って、勇気は親指を立てて白い歯をこぼれさせた。


「おれには分かるんす。南高のエースはこの人しかいないっす」


勇気が補欠を指さす。


補欠は一瞬目を点にしたけど、すぐにククッと笑って肩をすくめた。


「ほんと、生意気なんだよな、勇気は。昔から」


フフン、と勇気が鼻で笑い返した。


「そんでもって、必ず、おれがセンターをとる。明日、背番号8をもらうのは、おれですから」


補欠と勇気が、睨み合うように見つめ合った。


直後、どちらからというわけでもなく、たのしそうに吹き出して笑った。


そのたった数秒のやりとりに、あたしは釘づけになった。


これは、男と男にしか分からない会話なのだろう。


少し、うらやましく感じた。


その時、勇気の携帯にメールが届いたらしかった。


「うお、やっべえ」


確認した勇気は、急に顔色を変えてあたふたしだした。


「忘れてた!」


肩からずり落ちさうなスポーツバッグをドンと背負い直して、


「駅前で、純也とラーメン食う約束してるんすよ」


と自転車のところへ駆け出して行った。


「じゃ、お疲れっした!」


自転車に飛び乗った勇気は、さわやかすぎる笑顔を残して、去って行った。


「この暑っちいのにラーメンかよ」


おかしそうに笑う補欠の優しい声と、ひぐらしの鳴き声が混ざり合って公園に響く。