「秋の地区大会の背番号」


補欠が言い、勇気が続けた。


「明日の練習のあと、いよいよ発表なんですよ」


え……。


ポト、ペットボトルから最後の水滴が落ちる。


真夏の暑さと、あたしの手の熱で、ペプシコーラがなま温くなっていた。


あたしが背番号を貰うわけじゃないのに。


猛烈に高揚し、緊張した。


「そっか! そっか!」


ついに、明日か。


「そっかあー!」


嬉しかった。


今日か、明日か、いつだいつだ、と夏休みに入ってから毎日、きがかりだった。


あたしという彼女をほっぽり出して、朝から晩まで野球に明け暮れてきたんだ。


だから、もうそろそろエースになってもらわなきゃ困る。


背番号1を、背負ってもらわないと。


だって、あたし、必死に我慢してきたんだ。


補欠とデートしたくても、一緒の時間が欲しくても。


喉から両手を伸ばして掴み取りたいくらいだったけど。


我慢して、見つめて来たんだ。


今日まで、ずっと。


そろそろ、エースになって、甲子園に連れてってもらわなきゃ。


困る。


「補欠!」


あたしは補欠に飛び付いた。


「もちろん、エースだよな! なっ!」


「え……たぶん。わっかんねえよ、明日になってみないことには」


「はあー? なんで、当たり前だろって言えないんだよ!」


あたしはぶっきらぼうに、補欠の背中をどしどしど突いた。


自信持てよ。


胸張って、当たり前だろって言えよ。


じゃないと……困る。


不安に……なるじゃんか。